胃潰瘍の原因
東洋医学のアプローチと鍼灸治療
「みぞおちがキリキリ、シクシク痛む…」
「空腹になると胃が痛くなるけど、
食べると少し楽になる…」
「胸やけや黒い便が気になる…」
そのつらい症状、もしかしたら胃潰瘍かもしれません。 胃潰瘍は、十二指腸潰瘍と合わせて消化性潰瘍とも呼ばれ、精神的なストレスとの関係が非常に強い疾患です。
この記事では、胃潰瘍の基本的な知識から、東洋医学に基づく鍼灸治療がどのようにその症状緩和をサポートできるのか、そして当院の考える胃潰瘍のメカニズムまで、詳しく解説していきます。
【目次】
1.胃潰瘍とは?
~その原因と様々な症状~

中年のサラリーマンの持病のトップに挙げられることもある胃潰瘍。その多くは、ストレスが引き金になるといわれています。
胃潰瘍の主な症状
- 腹痛(特にみぞおち周辺)
- 胸やけ
空腹時に甘いものを食べたり、脂っこいものを食べたりした後に訴えることが多いです。酸っぱいげップが出る場合は、胸やけが起きているサインと考えられます。 - 出血(吐血・下血)
- 吐血
嘔吐物と共に、こげ茶色や黒褐色の血液が混じります。これは血液が胃酸によって酸化されるためです。 - 下血
黒いタール状の便が排出されます。これも胃酸の影響で血液が黒っぽくなるためです。
- 吐血
ただし、潰瘍があっても必ずしも上記のような症状があるとは限らず、自覚症状がないままに潰瘍が進行していることも少なくありません。
【重要】吐血・下血など危険なサインと
専門医の受診
黒っぽい吐血や下血(タール便)があるときは、胃や十二指腸からの出血が強く疑われます。 また、潰瘍が進行して穴が開いたり(穿孔)、大量に出血したりすると、命に関わることもあります。 これらの症状に気づいたら、自己判断せずに直ちに医療機関(内科、消化器内科など)を受診し、専門医による正確な診断と適切な治療を受けることが最も重要です。
鍼灸治療の役割と目的
東洋医学に基づく鍼灸治療は、内臓そのものの病的な変化(潰瘍など)を直接治すことを目的とはしていません。 鍼灸治療の役割は、患者様の自覚症状(痛み、胸やけなど)や他覚症状(筋肉のコリなど)を中心にアプローチし、患者様の体力や体調を整え、身体が本来持つ回復力や病気への抵抗力を高めることを目指します。 胃潰瘍の場合も、潰瘍に伴うつらい症状を緩和し、さらに体力の増強を図ることで、根本的な改善をサポートします。
2.胃潰瘍に対する鍼灸治療
鍼灸が胃潰瘍の症状に効果的な理由
- 鎮痛・鎮痙効果
鍼刺激により、胃のキリキリとした痛みやけいれんを和らげます。 - 胃酸分泌の調整
自律神経のバランスを整えることで、過剰な胃酸の分泌を抑制する働きが期待できます。 - 血行促進
胃の周辺や関連する背中のツボの血行を改善し、胃粘膜の修復を助けます。 - ストレス緩和
胃潰瘍の大きな原因となる精神的ストレスや緊張を、鍼灸の深いリラックス効果で和らげます。
症状緩和に効果が期待できる主要なツボの例
胃潰瘍に伴う症状や体質に合わせて、以下のツボを中心に施術します。
具体的な鍼灸治療法
施術方法について
これらの治療法は、マッサージや指圧でもある程度の効果は期待できますが、鍼灸治療が最も効果的と考えられます。 ただし、痛みが強い時にご自身で腹部を強くマッサージするのは避けましょう。
3.免疫学から考える胃潰瘍
胃潰瘍と顆粒球の関係
胃炎や胃潰瘍を患う方は、その時期に深い悩みや心理的な重圧を抱え、多忙で休む暇もない、といった状況にあることが多いようです。 このような状態は交感神経緊張状態となり、副交感神経の支配下にある消化器機能(胃のぜん動運動や胃酸・消化酵素の分泌)は抑制され、食欲不振になります。 この交感神経緊張は、免疫細胞の一種である顆粒球の増加を招き、粘膜や組織の障害を引き起こすことになります。これが胃炎や胃潰瘍の発症メカニズムの根幹にあると私たちは考えています。
胃潰瘍の原因としては、 ① 精神的ストレス ② 過労 ③ 非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)の長期使用 ④ 細菌感染(ヘリコバクター・ピロリ菌も含む) の順で多いと考えられていますが、これら全てに共通する因子は「交感神経緊張状態」です。 実際に、胃潰瘍患者様の血液を調べると、顆粒球の数や比率が優位に増加していることが認められ、胃の切除標本を観察すると、粘膜下に多数の顆粒球が浸潤しているのが確認されています。
「胃潰瘍の酸消化説」の謎
長い間、胃潰瘍は胃酸が胃粘膜を自己消化してしまう「酸消化説」が主流でした。しかし、この説は多くの矛盾をはらんでいます。 なぜこの説が生まれたのか。それは、胃の酸分泌と生体の防御反応を見誤ったことから生じたものと私たちは考えています。
ストレスによって食欲が低下し、飢餓状態に陥るのを救うため、胃潰瘍患者様には一時的に急な副交感神経の反応(リバウンド)が起こります。つまり、突然、胃のぜん動運動が活発になり、酸と消化酵素が分泌されるのです。 この反応が起こった時に食事をすると、食物が入ることで胃の働きが正常化し、生じていた胃潰瘍の痛みは消失します。 この「お助け反応」を、痛みを伴うがゆえに「原因」とみなしてしまったのが、「胃潰瘍の酸消化説」だと考えられます。そして、その結果、多くの制酸剤が間違って投与されることになりました。
胃潰瘍発症メカニズムの歴史的混乱
- 過去に行われた迷走神経切除術(胃酸分泌を抑える目的)は、副交感神経支配を破壊し、相対的に交感神経を優位にさせた結果、潰瘍を悪化させました。
- H₂ブロッカー(シメチジンなど)は、胃酸分泌を抑制する作用よりも、副作用として知られていた「顆粒球減少作用」によって、結果的に抗胃潰瘍作用を発揮していたと考えられます。
- プロトンポンプ阻害薬(PPI)も、酸分泌抑制と共に、顆粒球の活性酸素放出を抑制する作用があることが分かっています。
そもそも、酸分泌は胃潰瘍患者様にとって、消化を助け、飢餓から逃れるための保護的な反応として起こっています。 いずれの制酸剤も、長期使用は胃の内部環境を壊し、かえってヘリコバクター・ピロリ菌などが定着しやすい環境を作り、本格的な難治性の胃潰瘍へと導く危険性をはらんでいます。
今日、ヘリコバクター・ピロリ菌が胃潰瘍の主原因と言われていますが、その多くは、薬剤の使用などによって胃の環境が悪化した「医原性」のものである可能性も否定できません。 また、まずストレスによる顆粒球の胃粘膜への集積があり、それを活性化させる要因として、ヘリコバクター・ピロリ菌の存在も二次的に重要性をもってくる、と考えるのが自然でしょう。 東洋医学的な治療は、この大元にある交感神経緊張状態を緩和し、全身のバランスを整えることを目的とします。
この考察は、当院の東洋医学的な視点に基づくものです。現在、医師の指導のもとで薬物療法を受けている方は、自己判断で薬を中断することは絶対に避けてください。治療方針の変更は、必ず主治医と十分に相談の上で行う必要があります。










