胃潰瘍

白いチューリップの花

胃潰瘍の原因 ー東洋医学のアプローチ

【目次】

1.胃潰瘍の原因と症状
2.胃潰瘍の鍼灸治療
  ・主要なツボ
  ・治療法
3.免疫学から考える胃潰瘍
  ・胃潰瘍では顆粒球増多が認められる
  ・胃潰瘍の酸消化説が生まれた謎
  ・胃潰瘍発症のメカニズム、混乱の歴史

胃潰瘍の原因と症状

潰瘍のある胃

中年のサラリーマンの持病のトップに挙げられる病名に、胃潰瘍があるかと思います。十二指腸潰瘍とあわせて精神的ストレスとの関係がきわめて強く、したがって、治療の方法も共通する点が多いことも認められるようになりました。胃潰瘍十二指腸潰瘍は、あわせて、消化性潰瘍と呼ばれます。

自覚症状の中で最も多いのは腹痛で、痛みはみぞおちあたりの範囲で、焼けるような、差し込むような、シクシクする、石をお腹にのせられているような痛みで、食事をするとおさまり、空腹になるとまた痛み始めます。

痛みとともによくみられる症状は、胸やけです。空腹時に甘いものを食べたり、脂っこいもの食べたりしたあとに訴えることが多いようであります。げっぷが出る場合は、知らぬ間に飲みこまれた胃内の空気が外に出たに過ぎませんが、すっぱいげっぷが出るときは胸やけがあると考えてよいでしょう。

また、吐血下血胃潰瘍に多く見られます。吐血はおう吐ともに出て、こげ茶ないしは黒褐色で、食べ物の残りを含んでいます。下血とは、血液を含む黒いタール様の便の排出することで、胃液の中に含まれている塩酸の働きで、血液が黒っぽくなると考えられます。したがって、黒っぽい吐血、下血のあるときは、塩酸の存在する胃や十二指腸付近の病気を考えるのが常識となっています。

しかし、潰瘍があっても必ず上記のような症状があると限らず、知らない間に潰瘍になっていることも少なくありません。

元来、東洋医学療法は内臓そのものにある病的変化よりも、患者の自覚症状や他覚症状を中心に、患者の体力や体調を変化させて、回復させる力や病気への抵抗力を強めることを目指しています。

胃潰瘍の場合も、胃潰瘍を直接治すツボがあるのではなく、潰瘍に伴う症状を正しく判断して、それらを除去して、さらに体力の増強を図る治療を行います。

胃潰瘍の鍼灸治療

主要なツボ

背部 「膈兪」、「肝兪」、「脾兪
   「腎兪
腹部 「不容」、「期門」、「中脘
   「肓兪
足部 「足三里」、「陽陵泉」、「梁丘
手部 「内関」、「合谷

などがポイントになります。

治療法

うつぶせで、背中の「膈兪」、「肝兪」、「脾兪」を刺激します。これらのツボなどで、背中の中央のコリと重苦しさをとり、潰瘍によって起こる腹部症状を抑えます。

胃潰瘍の原因は、胃液などの攻撃因子と胃粘膜の防御の力関係がくずれることによって起こると考えられますが、特に「膈兪」というツボは胃液の分泌を抑える作用があるとされています。

また、胃潰瘍の大敵であるストレスを除き、体力の増強を図るために、「腎兪」も治療するといいでしょう。

次にあおむけで、お腹の治療をします。ここでは「不容」、「期門」、「中脘」などを治療します。さらに、腹筋の緊張をやわらげて、腸の機能を整えるために「大巨」と、体力増強を目的のために「肓兪」を処置します。

さらに、腕の「内関」と手の「合谷」、足の「足三里」、「三陰交」を刺激して、胃腸の調子を整えます。足の外側、ひざの少し下にある「陽陵泉」も胃潰瘍には欠かせないツボです。このツボへの刺激は、胃潰瘍特有の痛みを鎮めるばかりではなく、胃液の出しすぎを抑える働きもします。あわせて、空腹時の痛みを取り除く「梁丘」、「衝陽」も刺激します。

治療法は、マッサージや指圧でも効果がありますが、鍼灸治療が最も効き目があります。マッサージや指圧の場合は、腹部への治療は避けてください。

免疫学から考える胃潰瘍

胃炎や胃潰瘍を患う人は、罹患する時期に悩みが深く、心理的な重圧につぶされそうになり、また、忙しくて休む暇もないことが多いようです。このような状態は交感神経緊張状態で、副交感神経の支配下にある消化器機能は低下しています。つまり、胃などの蠕動運動の抑制、胃酸や消化酵素の分泌が抑制が起きて、食欲不振になっています。

このような交感神経緊張はアドレナリンレセプターをもつ顆粒球の増多を招き、粘膜や組織の障害を引き起こすことになります。これが胃炎や胃潰瘍の発症メカニズムだと考えられます。

長い間、胃潰瘍形成のメカニズムとして、胃が分泌する酸による自己消化が原因だとされる「酸消化説」が考えられてきました。しかし、この説は初めから提唱する人自身が疑問が多いことを述べています。消化説は胃の特殊性を考慮しすぎた暫定的なアイデアだったと思われます。

胃潰瘍では顆粒球増多が認められる

胃潰瘍の原因は、

精神的ストレス
過労
非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)の長期使用
細菌感染(ヘリコバクター・ピロリ菌も含む)

の順で多いと思われていますが、全てに共通する因子は交感神経緊張状態です。

胃潰瘍患者で、本当に交感神経緊張があり、その結果として顆粒球増多が末梢血に現れているかを検討しますと、顆粒球の絶対数でも比率でも、優位な顆粒球増多症が胃潰瘍患者で認められました。

顆粒球増多は必ず全身反応として現れますので、胃の粘膜などへの顆粒球浸潤も多い可能性があります。胃潰瘍患者の胃切除標本を多数観察すると、実際粘膜下に多数の顆粒球が認められています。

胃潰瘍の酸消化説が生まれた謎

ストレスやその他の原因によって交感神経緊張状態が生じ、次に顆粒球増多、そしてついに胃潰瘍が発症します。ではなぜ酸消化説は生まれたのでしょうか。それは、胃の酸分泌と生体の防御反応を見誤ったことから生じたものと考えられます。

ストレスによって副交感神経の働きが抑制されると食欲が低下し、このままでは生体は飢餓状態となってしまいます。これを救う反応として、胃潰瘍患者には急に一過性の副交感神経反応が引き起こされます。つまり、突然に胃の蠕動運動と、酸と消化酵素の分泌反応が起こります。この反応が起こったときに、食事をすると、蠕動運動によって生じた胃潰瘍の痛みは消失します。空の胃が動くと痛みを伴いますが、食物が入ると正常な状態になって働きだします。こうして胃潰瘍患者は飢餓から救われることになります。

このお助け反応を、痛みが伴うゆえに原因とみなしたのが、「胃潰瘍の酸消化説」だと考えられます。そして、間違って多くの制酸剤が投与されることになりました。

しもやけなど末梢の組織障害も、やはり交感神経緊張による血流障害と顆粒球増多によって引き起こされますこの治癒過程では、やはり激しい痛みが伴います。副交感神経反応によって循環改善が起こり、プロスタグランジンなどの痛みのホルモンが放出されるからです。

このように、交感神経緊張を解放しようとする副交感神経反応が起こったときに常に痛みを伴うということを、理解する必要があります。痛み自体を治療対象とするのではなく、その先にある原因を治療対象にしなければいけません。

胃潰瘍発症のメカニズム、混乱の歴史

1965年頃に、外科で胃潰瘍患者に迷走神経切除術が施行されたことがありました。これは胃潰瘍の酸消化説が信じられていたからです。しかし、結果は全くの期待外れで、むしろ逆の潰瘍の悪化が起こりました。

マウスの実験でも、迷走神経切除術は胃領域の副交感神経支配が破壊されるので相対的に交感神経優位の状態となり、胃粘膜に顆粒球増多が起きて、胃潰瘍形成の促進が起こりました。

このようにして、胃潰瘍酸消化説は消滅しかかったのですが、再び、混乱の歴史がH₂ブロッカーによってもたらせます。1972年にヒスタミンH₂拮抗薬のシメチジンが開発されたからです。

ヒスタミンは胃の壁細胞にあるH₂レセプターに結合して、酸を分泌させます。シメチジンはH₂レセプターに結合することによって、ヒスタミンの酸分泌作用を抑制し、潰瘍を治すとされています。

しかし、シメチジンは開発当初から顆粒球減少症を引き起こすことが知られていました。シメチジンの前の開発薬であるメチアミドは、さらにこの傾向が強かったのです。実際、シメチジンでさえ、ヒトに経口投与すると激しい顆粒球減少が誘導されます。

つまり、シメチジンの抗胃潰瘍作用は、酸分泌抑制を介してではなく、顆粒球減少を介して発揮されていたのです。酸を分泌する壁細胞だけではなく、顆粒球もヒスタミンレセプターを持つ細胞です。

酸分泌に直接かかわるプロトンポンプの阻害薬も抗胃潰瘍薬として使われていますが、こちらも酸分泌抑制とともに顆粒球の活性酵素の放出を完全に抑制する作用があることが分かりました。

そもそも、酸分泌は胃潰瘍患者のための保護反応として起こっています。いずれの制酸剤でも長期使用は危険をはらんでいます。胃の内部環境を壊し、ヘリコバクター・ピロリ菌感染が定着し、本格的な難治性の胃潰瘍へと導くからです。

今日、ヘリコバクター・ピロリ菌の胃潰瘍原因説が盛んにいわれていますが、ほとんどが医原性のものでしょう。また、ストレスによる顆粒球の胃粘膜への集積がまずあって、それを活性化するヘリコバクター・ピロリ菌の存在も二次的に重要性をもってくるのであります。

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