慢性胃炎を鍼灸で改善する方法と効果 ー 東洋医学によるアプローチ
「食後にいつも胃がもたれる…」
「原因不明の胃痛や胸やけが続く…」
「ただの胃弱だと思っていたけど、なかなか治らない…」
その不快な症状、もしかしたら慢性胃炎かもしれません。
慢性胃炎は、胃の粘膜に慢性的な炎症が続く病態で、放置すると様々な不調や、より深刻な病気の原因となる可能性も指摘されています。この記事では、慢性胃炎の根本原因、東洋医学に基づく鍼灸治療によるアプローチ、そして胃がんとの関連性といった重要な情報まで、詳しく解説します。
【目次】
1.慢性胃炎とは?~その原因と主な症状~
慢性胃炎の症状
慢性胃炎は、その名の通り、胃の粘膜に慢性的な炎症が続く状態です。病気の程度が軽い初期段階では、これといった自覚症状がないことも少なくありません。
主な症状
- 食後の軽い胃痛や胃のもたれ
- 胸やけ、吐き気
- お腹の張り(腹部膨満感)
- 食欲不振
- ゲップが多い
- 便秘
長引いた場合に伴う症状
- 体力の衰え、全身の倦怠感
- 貧血
- 肩こり、脱力感など
※胃にポリープがある場合も、慢性胃炎と似た症状が起こることがあります。
日本の50歳以上の方では、8割以上が程度の差こそあれ慢性胃炎の状態にあるとも言われています。自覚症状がないまま進行していることも多いため、定期的な検査と身体への注意が大切です。
なぜ慢性胃炎になるのか?
慢性胃炎は、背が高い、やせ型、ひ弱な体質(いわゆるアトニー体質)の方に多いといわれますが、一見丈夫そうな方でも悩まされることがあります。 その原因はまだ完全に解明されていない部分も多いですが、近年では、後述するヘリコバクター・ピロリ菌の感染が、慢性胃炎の最大の原因であることが分かってきています。その他、ストレス、食習慣、喫煙、加齢なども関与すると考えられています。
東洋医学の視点 「胃の六ツ灸」と体表のサイン
東洋医学では、古くから「胃の六ツ灸」という考え方があり、背中にある「肝兪」、「脾兪」、「胃兪」という左右一対(合計6つ)のツボを重視します。 これらのツボは、慢性胃炎の症状を改善するために非常に効果的であると同時に、逆に胃の調子が悪くなると、これらのツボの周辺にコリやしこり、圧痛といった反応が現れると考えられています。
これは、近年、西洋医学でも注目され始めている「内臓ー体性反射」という現象で説明できます。「内臓の異常は、それと関連する皮膚や筋肉の異常として体表に現れる」という考え方です。 鍼灸治療は、この体表に現れた反応点を刺激することで、内臓の不調にアプローチするのです。
2.慢性胃炎に対する鍼灸治療
鍼灸が慢性胃炎に効果的な理由
慢性胃炎に対する鍼灸治療は、鍼やお灸の刺激を用いて、以下のような効果を目指します。
- 体質改善と再発予防
全身の血行を促進し、自然治癒力を高めることで、胃炎が起こりにくい、丈夫な胃腸へと導きます。 - 胃痛や不快感の緩和
鍼の鎮痛作用や、お灸の温熱効果で、つらい胃の痛みや胃もたれ、胸やけといった症状を和らげます。 - 胃酸分泌の調整
過剰な胃酸の分泌を抑えたり、逆に分泌が少ない場合にはそれを促したりと、胃酸のバランスを整える働きが期待できます。 - 自律神経の調整
ストレスなどが原因で乱れた自律神経のバランスを整え、胃のぜん動運動を正常化し、消化不良を緩和します。 - 心身のリラックスとストレス軽減
鍼灸施術には深いリラックス効果があり、精神的なストレスが原因となっている胃の不調の改善に繋がります。
症状緩和に効果が期待できる主要なツボの例
慢性胃炎の症状や体質に合わせて、以下のツボを中心に施術します。
具体的な鍼灸治療法
【お灸の活用】 慢性胃炎には、お灸が特に効果的です。半米粒大から米粒大のもぐさで、知熱灸(熱さを感じたら取り除く方法)を行い、1カ所に3~5壮程度、3週間ほど継続します。スライスしたニンニクやショウガの上でもぐさを燃やす隔物灸も、胃を温め、働きを高めるのに有効です。
治療を受ける上での注意点と家庭療法
- 生活習慣の重要性
慢性胃炎は、胃の働きが弱まり、抵抗力が衰えていることが原因の一つです。治療と合わせて、胃を酷使しない生活習慣を心がけることが非常に大切です。
- 家庭でできるお腹のマッサージ
胃腸の調子が悪いと感じる時は、ご家庭でもセルフケアができます。みぞおちとおへその真ん中にある「中脘」を優しく指圧した後、おへそを中心に「の」の字を描くように、手のひらで優しくマッサージします。1回に100回以上なでるようにして、1日3回ほど行うと、胃の血流がよくなり、働きが活発になります。 お腹周りの体幹(インナーマッスル)を強化する運動も有効です。
3.【重要】体からのSOSサイン~胃がんとピロリ菌~
危険なサイン「真っ黒な軟便(タール便)」
便は体からの大切なお便りです。食べたものによって多少色は変わりますが、注意すべきは病的な色の変化です。 特に、イカ墨のように真っ黒で、どろっとした軟便(タール便)が何度も出る場合は、上部消化管(胃や十二指腸など)からの出血が疑われるため、すぐに医療機関の診断を受ける必要があります。
- 胃がん・胃潰瘍の可能性
黒い便の主な原因は、胃からの出血です。血液が胃酸と混ざり、腸を通過する過程で酸化して黒くなるのです。 - その他の便の色と病気の可能性(参考)
- 便が赤い(鮮血便)
大腸がん、大腸ポリープなど、肛門に近い部分からの出血。 - 便が白い(白色便)
胆管がん、膵頭部がんなど、胆汁の流れが妨げられている可能性。
- 便が赤い(鮮血便)
便の色は健康状態を知る重要なバロメーターです。毎日ちらっと見る癖をつけておきましょう。
胃がん最大の危険因子「ヘリコバクター・ピロリ菌」
近年、胃がんの危険因子として最も重要視されているのが「ヘリコバクター・ピロリ菌(ピロリ菌)」の感染です。
- ピロリ菌とは?
胃の粘膜に生息する細菌です。ピロリ菌に感染すると、胃の粘膜に慢性的な炎症(慢性胃炎)が引き起こされます。 - 胃がんへのプロセス
この慢性的な炎症が長い年月を経て、胃粘膜が痩せてしまう「萎縮性胃炎」に発展し、やがてその一部が胃がんへと進行すると考えられています。 - 感染率とリスク
ピロリ菌に感染しても必ず胃がんになるわけではありませんが、感染者の胃がんリスクは非感染者の15~20倍以上とされ、ピロリ菌感染のない胃がんは1%以下とされています。 - 感染経路と検査・除菌
ほとんどが衛生環境の整っていなかった時代の幼少期に、口を介して家庭内感染すると考えられています。ピロリ菌の有無は、呼気検査や血液検査、内視鏡検査などで簡単に調べることができ、感染している場合でも1週間程度の服薬で簡単に除菌できます。
胃がんのその他の危険因子
過度な飲酒、塩分や塩蔵品(漬物など)の過剰摂取、喫煙、ストレスなども胃がんのリスクを高めます。
胃がんは、早期発見・早期治療すれば、決して怖い病気ではありません。 ピロリ菌の検査・除菌や、定期的な胃カメラ検査を受けることが、胃がん予防には非常に重要です。
何科に行くべき?
- 消化器外科・内科
- 胃腸科