腎と塩 ー 五味のバランスと「適塩」の知恵
「塩味は腎を養うが、過ぎれば腎を傷つける」—東洋医学では、私たちの健康に欠かせない「味」が、薬にも毒にもなると考えられています。本稿では、五つの味(五味)のバランスの重要性と、特に生命力を司る「腎」と深い関係にある塩味の働き、そして現代人が陥りがちな食生活の落とし穴について詳しく解説します。
この記事を読めば、東洋医学について理解できるかと思います。分かりやすく、丁寧に解説するので、ぜひ一緒に学びましょう!
腎と塩
塩味は腎を〝養う〟
五味の摂取量は?
東洋医学では、五つの味(五味)と五つの臓器(五臓)には深い関係があると考えられています。昔から「塩味は腎を養うが、摂り過ぎると腎を傷つける」と言われるように、それぞれの味は対応する臓器を養う一方で、過剰に摂取するとかえってその臓器を損なう原因となります。
- 酸味は肝を養うが、摂り過ぎると肝を傷つける。
- 苦味は心を養うが、摂り過ぎると心を傷つける。
- 辛味は肺を養うが、摂り過ぎると肺を傷つける。
一般的に、自分が好む味は過剰に摂取しやすい傾向があります。特定の臓器が弱ってくると、身体がその臓器を養う味を欲するため、つい適量を超えて摂り過ぎてしまうのです。
五味の適切な摂取量はそれぞれ異なりますが、現代人は特に甘味を摂り過ぎる傾向があるようです。甘味はあらゆる食品に含まれており、果物にも果糖が豊富です。それに比べ、塩味の摂取量は昔より少なくなっています。
実は、甘味を適切に体内で処理するには、塩味とのバランスが重要です。なぜかと言うと、東洋医学の考え方では、甘味(土)の働きを適切に保つには、塩味(水)との関係性が不可欠だからです。塩味がなければ、甘味は体内で停滞し、うまく吸収・利用されません。現代の食生活では塩味の摂取が減り、甘味や酸味が増える傾向にありますが、酸味の過剰摂取は「肝が脾を剋する」という関係性から、消化器系(脾)を傷つける原因ともなります。
このように、五味は五臓を養うと同時に、そのバランスが崩れると五臓を傷つけることにもなります。私たちの身体は、日々の食べ物や生活習慣から繊細な影響を受けており、不調の多くはそのバランスの乱れによって引き起こされ、また、そのバランスを整えることによって改善されるのです。
塩にはひきしめる働きがある
塩味は、腎機能の全体に影響を与えます。塩の主な働きは、物を引き締め、縮ませることです。つまり、収斂性や凝固性が非常に強いのです。例えば、酢漬けは野菜の表面だけを固め、内側は柔らかいため、食べると「しこしこ」とした食感が残ります。しかし、塩漬けにすると、野菜の中まで固く引き締まります。
この働きは、体内でどのように作用しているのでしょうか。その鍵は「浸透圧」の調整にあります。身体に適度に引き締める力がなければ、組織は緩み、いわゆる「水太り」のような状態になってしまいます。私たちの身体の約70%を占める水分が、ただ存在するだけでなく、一定の形を保っていられるのは、この塩分によってコントロールされる引き締める力(浸透圧)があるからです。
太りやすい体質は、東洋医学的には肺と腎の機能が弱り、肝・心・脾の働きが過剰になって、全体のバランスが崩れている状態と考えられます。そのため、痩せるためのアプローチとしては、肺と腎の機能を強化することが一つの方法となります。
水そのものにも凝集性はありますが、塩分はより強力に物を引き寄せ、固める力を持っています。しかし、塩分を摂り過ぎて身体を引き締め過ぎると、今度は血や水の巡りが悪くなり、水液代謝を司る腎の機能が弱ってしまいます。したがって、塩分は多すぎず少なすぎず、適量であることが重要なのです。例えば、肌が乾燥して硬くなる「さめ肌」なども、塩分過剰による腎の変動が一因となっている場合があります。
また、塩分は血圧にも深く関与します。血管が過度に引き締められると、血圧は上昇します。必要な塩分の量は一人ひとり異なり、その人の腎機能の強弱によっても変わります。腎臓があまり丈夫でない自覚がある人は、特に塩分の摂り過ぎに注意が必要です。腎の強弱は、耳の状態、顔色や肌の艶、骨格、歯など、身体の様々な部分に現れるサインから推し量ることができます。










今回の講義の概要
塩味は腎、酸味は肝、苦味は心、辛味は肺を養いますが、いずれも過剰摂取は対応する臓器を傷つける原因となり、バランスが重要です。
塩味は体内で組織を引き締め、浸透圧を調整する重要な役割を担います。不足すると身体が緩み、過剰だと巡りが悪くなり、高血圧などの原因にもなります。
現代人は甘味を摂り過ぎ、塩味は不足しがちです。東洋医学では、甘味の代謝には塩味が必要であり、このアンバランスが様々な不調を招くと考えます。