手首で知る健康のサイン ー 四季の脈診入門
手首にそっと指を当てるだけで、身体の熱や冷え、エネルギーの状態まで読み解く。それが東洋医学の「脈診」です。私たちの脈は、実は春夏秋冬という自然のリズムと深く同調し、刻一刻と変化しています。本稿では、その基本となる「四季の脈」とは何か、そして季節ごとの脈の違いから、自分の身体の状態を知るための興味深い知恵をご紹介します。
この記事を読めば、東洋医学について理解できるかと思います。分かりやすく、丁寧に解説するので、ぜひ一緒に学びましょう!
腎と沈脈
脈診の仕方
四季脈に順応するのが健康体
健康な人の脈は、春夏秋冬という自然のリズムに順応して変化します。この、季節ごとの自然な脈の変化を「四季脈」と呼びます。四季脈は、自然界の温度変化などが身体に与える影響を、脈の状態で表しているのです。したがって、この四季のリズムに従っている脈は健康の証しであり、どこかで自然のリズムに反している場合は、身体に何らかの不調があると考えられます。いずれにしても、脈の状態は身体の状態を正直に示しているのです。
この考え方は、基本的には「冷」と「熱」という二つの軸で分類すると理解しやすくなります。
四季の脈と身体の状態
・冬の脈:沈脈
冬であれば、脈が深く沈んでいる「沈脈」は自然な状態です。これは、身体が体温を保つために血管が収縮し、身体の深い位置に移動するためです。もし冬以外の季節に沈脈が現れたなら、それは身体が冬のように冷え込んでいる状態を示します。この「冷え」にも、心臓の熱を生み出す力が弱い、冷たい飲食物を摂った、といった様々な原因が考えられますが、まずは「沈脈は冷えを示す」という大原則を理解することが、全ての脈を理解する第一歩となります。
・夏の脈:洪脈
「洪脈」は、まるで洪水のように力強く、速く、そして皮膚の表面近くで感じられる脈です。これは、身体が熱を持ち、体温を下げるために動脈が皮膚表面に接近している状態を示します。洪脈は、熱と深く関連する「心」の働きが活発であること(心旺)を示す脈です。

・春の脈:弦脈と緩脈
春の脈は、弓の弦のようにピンと張った力強い「弦脈」として現れます。これは、冬の間に蓄えられたエネルギーが、春の訪れとともに芽吹き、外に向かって伸びていく様を表しています。また、固い土が割れて芽が出るように、身体の緊張が緩んでエネルギーが外に向かおうとする状態を「緩脈」と表現することもあります。
・秋の脈:濇脈
「濇脈」は、秋の脈です。秋は、夏の盛んな陽気が収まり、涼しい陰の気が加わる季節です。草木に例えるなら、外見は葉が生い茂り盛大に見えても、その内側では生命エネルギーが根の方へと帰納し、凝縮し始めています。外見は力強くても、内側の力は衰え始めているのです。これを「外剛内柔」と表現できます。
この状態が脈に現れたものが濇脈であり、身体に熱がこもっていた状態から、それが下がり始めてきた証拠とも言えます。濇脈は、主に「肺」の働きが中心となる(肺旺)脈であり、年齢で言えば、エネルギーが内に収束していく老年期の脈にも通じます。
脈診の要点 原理の理解と個人差
脈診において重要なのは、個々の脈状を丸暗記するのではなく、その背後にある原理を理解することです。そうすれば、様々な状況に応用が利きます。
脈は、その人の年齢や体質によっても異なります。例えば、成長期にある子供の基本的な脈は「弦脈」に近く、老年期に入れば「濇脈」に近くなります。そして、その年代ごとの基本の脈の上に、さらに春夏秋冬の「四季脈」が重なって現れるのです。誰の、どのような状態の脈を診ているのかを常に意識することが大切です。
年齢別、体質別、そして四季別の自然な脈の状態を知り、そこからの「狂い」を読み解くことが、その人の病脈を知るということなのです。
脈の診かた 寸・関・尺と九侯


脈を診る際は、手首の親指側にある橈骨動脈に、人差し指・中指・薬指の三本を揃えて軽く当てます。
位置(三部)
- 人差し指が当たる部分を寸
- 中指が当たる部分を関
- 薬指が当たる部分を尺
と呼びます。これらはそれぞれ、天・人・地に対応します。
深さ(三層)
- 軽く触れただけで感じられる脈を浮
- 少し圧を加えて感じる脈を中
- 強く押さえて骨の近くで感じる脈を沈
と呼びます。これもまた、天・人・地に対応します。

この3つの位置と3つの深さを組み合わせた、合計9つのポイントで脈の状態を詳細に診ることを「九侯の脈」と言います。例えば、軽く触れただけで感じられる脈(浮)は、身体の表面に近い部分の状態を、深く押さえて感じる脈(沈)は、身体の深い部分の状態を示していると捉えることができます。










今回の講義の概要
健康な人の脈は、春夏秋冬の自然のリズムに順応して変化します。この「四季の脈」を知ることが、脈診の第一歩です。
夏の熱気は力強い「洪脈」、冬の寒さは深い「沈脈」、春の芽吹きは張り詰めた「弦脈」、秋の収束は落ち着いた「濇脈」として現れ、それぞれが体内の状態を示します。
脈は手首の三つの部位(寸・関・尺)と三つの深さ(浮・中・沈)で診ます。丸暗記ではなく、年齢や体質も考慮しながら、なぜその脈になるのかという原理を理解することが重要です。