東洋医学講座 415

東洋医学講座 415 腎と坎

東洋医学の叡智 |「かん」が示す腎と、森羅万象を読み解く易経の活用法

東洋医学の世界では、生命力を司る「腎」は、森羅万象の「水」の働きを象徴する易経の卦、「坎(かん)」と深く結びついています。しかし、「易」とは単なる占いではなく、十干十二支をも超えた、宇宙のあらゆる状態を見通すための深遠な知恵の道具です。本稿では、「坎」が示す意味と、治療家がなぜ大宇宙的な視野を持つべきなのかを探ります。


この記事を読めば、東洋医学について理解できるかと思います。分かりやすく、丁寧に解説するので、ぜひ一緒に学びましょう!

今回の講義の概要

  • かん」は腎を象徴する水の卦
    易経の八卦「坎」は五行の「水」を象徴し、天の雨、地の川、そして人体の「腎」の働きを示します。
  • 「易」は万能のレンズ
    「易」は、固定的な定義を持つ十干十二支とは異なり、森羅万象の流動的な状態そのものを見通す、使い手の意識に応じて自在に働きを変える動的な知恵の道具です。
  • 治療家には宇宙的視野が不可欠
    易を使いこなし、人体(小宇宙)を治療するためには、使い手自身が物事の表面だけでなく、その奥にある大宇宙の法則を見通す広い視野と深い洞察力を持つことが求められます。

腎とかん

「坎」とは、易経における八卦(はっけ)の一つであり、五行の「水」の性質、すなわち森羅万象における「水」の働き全てを象徴する符号です。

  • 天においては、雨、雪、霧といった天候や湿気を表し、
  • 地においては、川や海流といった「流れる水」を表し、
  • 人体においては、生命力の源である「腎」の系統全体とその働きを示します。

「坎」の字は、土(☷)が中央で欠けている形をしており、水が大地を流れていく姿を象っていると言われます。

ちなみに、同じ水の性質でも、湖や水たまりのような「流れない水」は、「沢(さわ)」を意味する「兌(だ)」の卦で表されます。氷も、流れる水(坎)が凝結し、形を変えたものとして「兌」に属すると考えられます。

易の活用について

易と十干・十二支の違い

東洋思想には、自然の働きを読み解くための様々な符号があります。「十干・十二支」が、自然界の時の流れを「甲、乙、丙…」といった固定的な符号で示しているのに対し、「易」は、その働きが「今まさにどういう状態にあるのか」という、流動的な状態そのものを見通すためのものです。

つまり、十干・十二支は不動の定義を持つ一方で、易はその定義を基に、あらゆる事象を類推し、思考を広げていく動的な仕組みなのです。

例えるなら、顕微鏡は微小な世界しか見ることができませんが、易は、時に顕微鏡となり、時に双眼鏡や天体望遠鏡となり、またある時は肉眼そのものにもなるというように、使い手の意識に応じて自在にその働きを変えることができるのです。

易を使いこなすために

ここに、易の難しさがあります。この道具の自在性を引き出せるかどうかは、使い手である人間自身の視野の広さや思考の深さにかかっているからです。相当に広い視野と深い洞察力を備えた人でなければ、易を縦横無尽に使いこなすことはできません。

人体の治療を志す皆さんは、大宇宙と、その縮図である小宇宙(人体)を深く知る必要があるため、何よりも広い視野を持たなければなりません。いやいや勉強しているようでは、この道で大成することは覚束ないでしょう。この深遠な真理から目を背け、通り過ぎようとする人に、人体の治療、すなわち「小宇宙の制覇」など思いもよらないことなのです。

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