自己免疫疾患は
「免疫の暴走」ではない?
リンパ球減少と「古い免疫」の真実
「自己免疫疾患は、自分の免疫が暴走して自分を攻撃する病気」。長年信じられてきたこの定説に、今、大きなパラダイムシフトが起きています。
臨床現場で見られる「リンパ球の減少(免疫抑制)」という事実と、教科書的な「免疫亢進」という理論の矛盾。このギャップを埋める鍵は、私たちの体に備わる「進化の記憶」と「古い免疫システム」にありました。最新の免疫学から、自己免疫疾患の本当の病態を解き明かします。
1. 臨床の現場にある「矛盾」
免疫は暴走しているのか、低下しているのか?

臨床の医師であれば誰もが知っている事実があります。それは、リウマチや膠原病などの自己免疫疾患の患者さんの血液を調べると、末梢血のリンパ球数が著しく減少しているということです。
リンパ球が減っているということは、本来、体は「免疫抑制(免疫力が低い)」状態にあります。
しかし、従来の医学では「自己免疫疾患=免疫機能の異常亢進(強すぎる)」と定義されてきました。
- 事実
リンパ球が減っている(免疫抑制) - 定説
免疫が暴走している(免疫亢進)
長年、この決定的なギャップは放置されてきましたが、ここ10年の研究により、その謎を解く鍵が見つかりました。それが、私たちの中に眠る「2つの免疫システム」の存在です。
2. 人体に共存する「新旧」2つの免疫システム
私たちの体には、進化の過程で獲得した異なるレベルの免疫細胞が共存しています。
- 新しい免疫(進化の極限)
通常のT細胞やB細胞。胸腺で教育を受け、外敵(ウイルスや細菌)を攻撃する強力なエリート部隊。 - 古い免疫(進化レベルが古い)
胸腺外分化T細胞や自己抗体産生B細胞。単細胞生物時代からの名残で、体の内部を監視する(内部監視機構:innate immunity)パトロール部隊。
この「古い免疫システム」の存在が明らかになったことで、自己免疫疾患に対する見方が180度変わりました。
3. 「負の選択の失敗」説の崩壊
これまで、自己免疫疾患の原因は、「新しい免疫(エリート部隊)」の教育ミスだと考えられてきました。
通常、新しいT細胞やB細胞は、胸腺などで「負の選択(ネガティブ・セレクション)」と呼ばれる厳しい試験を受けます。ここで「自分を攻撃してしまう細胞」は不合格となり、消去されます。
従来の説では、「この試験をすり抜けた不良細胞が、自分を攻撃している(負の選択の失敗)」とされてきました。
▼ 最新の研究が示す真実
しかし、ヒトや動物モデルの研究で、自己免疫疾患において「負の選択の失敗」は認められませんでした。 つまり、エリート部隊の教育ミスではないのです。
逆に観察されたのは、以下の現象です。
- 激しい免疫抑制が起きている(胸腺が萎縮し、新しいT細胞・B細胞が激減)。
- その空白を埋めるように、「古い免疫(胸腺外分化T細胞など)」が増加している。
4. 真の病態
ストレスによる「古い免疫」の緊急動員
では、なぜ「自分を攻撃する細胞」が現れるのでしょうか?
それは、エラーではなく生体の防御反応です。
- 免疫の抑制(ストレス等)
過度なストレスや交感神経緊張により、胸腺が萎縮し、新しいリンパ球が作れなくなります(免疫低下)。 - 古い免疫の動員
防御の穴を埋めるために、胸腺での教育を必要としない「古い免疫細胞(胸腺外分化T細胞など)」が緊急動員されます。 - 自己への反応
この「古い細胞」たちは、元々「負の選択」を受けていません。なぜなら、彼らの本来の役割は、体内で発生した異常な自己細胞(がん細胞や古くなった細胞)を見つけて処理することだからです。つまり、「自己に反応する」ことが彼らの正常な機能なのです。
まとめ
自己免疫疾患は「免疫系の主役交代」である
自己免疫疾患とは、免疫が暴走してミスを犯している状態ではありません。
ストレスなどで新しい免疫システムが破綻(抑制)した結果、代償として現れた古い免疫システムが、異常な自己細胞や組織を懸命に処理しようとして起きる炎症反応なのです。
「免疫を抑える」だけの治療から、「なぜ新しい免疫が抑制されてしまったのか(=ストレスや生活背景)」を見直す治療へ。病態の正しい理解が、治癒への道を拓きます。














この記事を読めば、免疫について理解できるかと思います。分かりやすく、丁寧に解説するので、ぜひ一緒に学びましょう!
今回の講義の概要
・「免疫の暴走」ではなく「免疫抑制」が正体
・「負の選択の失敗」説は否定された
・「古い免疫」の緊急動員