自己免疫疾患の引き金とは?
風邪ウイルスとストレスが招く
「免疫抑制」のメカニズム
自己免疫疾患は、ある日突然、何の原因もなく発症するわけではありません。臨床の現場で患者さんの声を丁寧に聴き取ると、病気が発症する直前に、身体や心に大きな負荷(トリガー)がかかっていたことが浮かび上がってきます。
今回は、関節リウマチやバセドウ病などの発症に深く関わる「ウイルス感染」と「ストレス」の影響について、免疫学の視点から解説します。
1. 発症前に潜む「2つの引き金」

自己免疫疾患の患者さんの問診表を遡ると、大きく分けて以下の2つのパターンが存在することがわかります。
- ウイルス感染(風邪など)からの発症
慢性関節リウマチ(RA)や全身性エリテマトーデス(SLE)の患者さんでは、病気が本格的に発症する前に、風邪などのウイルス感染症状があったケースが頻繁に見られます。 - 過酷なストレスからの発症
甲状腺機能亢進症(バセドウ病)や強皮症などの患者さんでは、発症前に過労などの激しい「肉体的ストレス」や、深い悩み事などの「精神的ストレス」を抱えていたことが多く聞き出せます。
2. ウイルス感染が「免疫抑制」に反転する理由
風邪のウイルス感染が激しい時、健康な人でも関節が痛むことがあります。
激しいウイルス性の炎症が起こると、体内では「炎症性サイトカイン」という物質が大量に放出され、発赤、発熱、そしてフレグモーネ様(※広範囲の組織に波及する激しい化膿性の炎症)の反応により、自己の組織破壊が起こります。
通常であれば、この組織破壊はウイルスの終息とともに治癒に向かいます。
しかし、炎症や組織破壊があまりにも激しすぎた場合、体はそのダメージに耐えきれず、新しい免疫の司令塔である「胸腺システム」が萎縮し、極度の『免疫抑制状態』へと陥ってしまうのです。
3. ストレスと自律神経による「胸腺の萎縮」
ウイルスだけでなく、精神的・肉体的なストレスも同様の現象を引き起こします。
生体が強いストレスに晒されると、自律神経は交感神経の過緊張状態に陥ります。すると、体内では以下のようなストレスホルモンが大量に放出されます。
- カテコールアミン(アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミンなど)
- 副腎皮質ホルモン(ステロイドホルモン)
これらのホルモンは、生体を危機から守るために一時的に分泌されるものですが、長期間・過剰に放出されると、胸腺を強く萎縮させ、深刻な免疫抑制を引き起こします。
4. 組織破壊と細胞死(アポトーシス)の
負の連鎖
このようなウイルス感染やストレスによる強力な免疫抑制は、胸腺細胞のアポトーシス(細胞の自然死・自死)を誘発します。
ここで重要なのは、このアポトーシス(破壊)は免疫系の細胞だけにとどまらず、全身の正常な生体細胞の破壊も同時に伴っているということです。
見方を変えれば、「過剰なストレスや炎症によって生体細胞が大量に破壊された結果として、免疫抑制が生じた」と言うこともできます。
治癒への視点
なぜ自己免疫疾患になるのか?
大量に破壊された自分の細胞(組織のゴミ)は、速やかに掃除されなければなりません。胸腺が萎縮し、エリート免疫が動けない(免疫抑制)中で、この大量のゴミ処理を引き受けるのが、前回の記事で解説した「古い免疫システム(内部監視機構)」です。
彼らが破壊された組織に集まり、必死に処理しようとする姿が、私たちの目には「自己免疫疾患の炎症」として映っているのです。














この記事を読めば、免疫について理解できるかと思います。分かりやすく、丁寧に解説するので、ぜひ一緒に学びましょう!
今回の講義の概要
・発症の背景には「明確な引き金」がある
・激しい炎症が「免疫抑制」を招く
・交感神経の過緊張と細胞の破壊