免疫 77 自己免疫疾患のオーバーラップの謎

自己免疫疾患はなぜ併発する?オーバーラップ症候群と重症筋無力症の謎

自己免疫疾患はなぜ併発する?
オーバーラップ症候群と重症筋無力症の謎 

橋本病は甲状腺、ルポイド肝炎は肝臓と、自己免疫疾患は特定の臓器だけがピンポイントで「攻撃」されることもあれば、逆に関節リウマチ(RA)や全身性エリテマトーデス(SLE)のように全身の組織に症状が広がることもあります。さらには、複数の自己免疫疾患が同時に発症する「オーバーラップ症候群」に苦しむ方も少なくありません。

なぜ、このような複雑な症状の違いが生まれるのでしょうか。また、重症筋無力症という難病が、一見関係のなさそうな「胸腺の摘出」によって治癒することがあるのはなぜか。

本記事では、免疫学の視点から身体全体の繋がりを読み解き、これらの謎と病態形成のメカニズムに迫ります。

自己免疫疾患の多様性
なぜ特定の臓器が狙われるのか? 

1. 破壊された組織を掃除する
「古い免疫」の働き

橋本病(自己免疫性甲状腺炎)やバセドウ病では甲状腺が、シェーグレン症候群では外分泌腺、尋常性天疱瘡では皮膚の細胞が標的となります。また、赤血球や血小板などの血液細胞が標的になる病気もあります。 

なぜこのように特定の分子や細胞が狙われるのでしょうか。

過去の記事でも触れた通り、「胸腺外分化T細胞」や「自己抗体産生B細胞」といった進化的に古い免疫システムは、自分の細胞に反応する性質(自己応答性)を持ったまま体内をパトロールし、「異常な自己細胞の監視機構」として働いています。 

ウイルス感染や激しいストレスによって、ある特定の組織や臓器の細胞が破壊された時。その破壊された異常細胞(ゴミ)を速やかに掃除して排除するために、特定の組織に反応する古い免疫細胞が活性化します。これが、特定の臓器に限定して自己免疫疾患が発症するメカニズムです。「攻撃」しているのではなく、傷ついた組織を「処理」している結果なのです。

全身に広がる膠原病と
「オーバーラップ症候群」の理由 

2. 全身共通の物質(DNAなど)への
反応が全身性疾患を生む

一方で、全身性エリテマトーデス(SLE)や強皮症、皮膚筋炎といったいわゆる「膠原病」は、全身の様々な組織に症状が現れます。

これは、生体内の構成成分の中に、すべての組織や臓器で共通して存在している物質(DNA、核タンパク質、ミトコンドリア、リン脂質など)があるためです。 

ストレスや感染による組織破壊が広範囲に及び、これらの「全身共通の物質」に対する古い免疫の活動(クローンの拡大)が激しくなった場合、症状は一つの臓器にとどまらず、全身性の自己免疫疾患として現れることになります。

3. 顆粒球の暴走が招く複数の病気の併発

また、自己免疫疾患の患者様の中には、複数の病気が同時に発症する「オーバーラップ症候群」が見られることがあります。 この原因の一つは、特定の臓器間で共通の抗原(目印)が存在していることです。そしてもう一つ、極めて重要な原因があります。それは「顆粒球かりゅうきゅうの活性化」です。 

古い免疫システム(胸腺外分化T細胞など)が活性化する時、体内では必ず「顆粒球」の異常な増多と活性化が伴います。顆粒球は強力な活性酸素を放出して非特異的な(手当たり次第の)激しい炎症を引き起こすため、病態がさらに複雑化し、オーバーラップしやすくなるのです。 これらの根底には、新しいエリート免疫(胸腺由来T細胞など)が強いストレスによって「免疫抑制状態」に陥っているという共通の事実があります。 

重症筋無力症の謎
なぜ「胸腺摘出」で治癒するケースがあるのか?

4. リンパ球と筋肉の意外な共通点

自己免疫疾患の一つに、筋肉を動かす指令が伝わらなくなり脱力が起こる「重症筋無力症」があります。これは神経と筋肉の接合部にある「アセチルコリン受容体」に対する自己抗体が作られてしまう病気ですが、不思議なことに、首の付け根にある「胸腺」を摘出すると、約半数の患者さんで治癒・改善が見られます。 

筋肉の病気なのに、なぜ免疫の臓器である胸腺を取ると治るのでしょうか。この謎は、以下の2つの新しい事実によって論理的に説明できます。 

  1. リンパ球もアセチルコリン受容体を持っている
    実は筋細胞だけでなく、免疫細胞であるリンパ球自身も同じ受容体を持っています。
  2. 胸腺の髄質で作られる古い免疫
    胸腺の奥深く(髄質)には古いリンパ組織の名残があり、そこで普段から「胸腺外分化T細胞」や「自己抗体産生B細胞」が細々と作られています。

つまり、重症筋無力症の患者さんの体内では、胸腺の中で古い免疫細胞(B細胞)が作られる際、すぐそばにいる別のリンパ球(T細胞)が持つ「アセチルコリン受容体」に反応してしまい、自己抗体を大量に産生し始めて(クローンの拡大)しまっているのです。

そのため、抗体の製造工場となってしまった胸腺を摘出することで、症状が劇的に改善するケースがあるというわけです。 

病気は決してランダムに身体を壊しているわけではありません。身体全体の繋がりと理(ことわり)を読み解くことで、原因不明とされる不調にも必ず道筋が見えてきます。