はじめに:二つの医学を
「納得」して選ぶために
近年、不妊治療の現場では、最先端の西洋医学的なアプローチと、伝統的な東洋医学(鍼灸)を併用する方が増えています。
高度な医療技術で「生命の萌芽」をサポートする西洋医学。そして、その生命が育つための「身体という土壌」を整える東洋医学。 この二つは対立するものではなく、互いの死角を補い合う関係にあります。
本記事では、西洋医学的な不妊治療の概要を整理しつつ、そこに鍼灸がどのように寄与できるのか、身体全体を読み解く視点から解説します。
1. 西洋医学と東洋医学(鍼灸)の
相乗効果
不妊治療において、両者の得意分野は明確に異なります。それぞれの特性を理解し、適切に組み合わせることで、治療の質を高めることが期待できます。
西洋医学の強み:直接的なアプローチ
東洋医学(鍼灸)の強み
全体的な土台づくり
東洋医学では、局所(子宮や卵巣)だけでなく、全身のバランスを重視します。
- 血流と自律神経の調整
冷えを取り除き、骨盤内の血流を促すことで、ホルモンが届きやすい環境を整える。 - 副作用とストレスの緩和
薬剤による身体への負担や、治療に伴う精神的な緊張を、必要最小限の刺激で緩める(寛かい)。 - 着床環境の整備
質の良い卵子が育つための栄養状態や、着床しやすい子宮内膜の環境を整える。
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2. 知っておきたい西洋医学の
不妊治療法(概要)
西洋医学では、段階的に高度な技術を用いることが一般的です。ご自身の治療が現在どの段階にあり、身体にどのような作用を与えているかを理解することは、納得のいく治療を受けるための第一歩です。
人工授精(AIH)
男性の精液を細いチューブを用いて子宮内に直接注入し、自然な受精を待つ方法です。
- 対象
精子の数や運動率に課題がある場合など。 - 特徴
精子を卵管へ送り届けますが、そこから先の受精・着床は自然の力(身体の力)に委ねられます。「神のみぞ知る領域」と言われるこのプロセスにおいて、東洋医学による身体のコンディショニングが重要になります。
生殖補助医療(ART)
体外受精・顕微授精
体内での受精が難しい場合、体外で受精を行い、培養した胚を子宮に戻す技術です。
- 体外受精(IVF)
採取した卵子に精子をふりかけ、自然な受精を待ちます。卵管に課題がある場合などに有効です。 - 顕微授精(ICSI)
顕微鏡下で、卵子の中に直接精子を注入します。精子の数が極端に少ない場合でも、受精の可能性を広げることができます。
凍結融解胚移植と「身体を休ませる」選択
近年では、採卵した周期にすぐ移植せず、受精卵を一度凍結保存する手法が主流になりつつあります。 排卵誘発剤で負荷のかかった卵巣や子宮を一度休ませ、ホルモン環境が落ち着いてから移植することで、着床率の向上が期待できます。この「身体を休ませ、整える期間」こそ、鍼灸治療が貢献できる重要なタイミングです。
3. 年齢と向き合う
成功率と身体の現実
日本産科婦人科学会の報告(2017年データ)によると、体外受精などのARTによる出産率は年齢と共に変化します。
- 30歳: 21.9%
- 35歳: 18.9%
- 40歳: 9.3%
- 45歳: 1.0%
年齢の上昇に伴い、染色体の課題や流産のリスクは高まります。だからこそ、数値だけにとらわれず「今ある身体の機能を最大限に発揮できる状態」を作ることが重要です。東洋医学では、加齢による「腎気(生命力)」の低下を補い、巡りを良くするアプローチをとります。
4. 卵巣刺激法の違いと身体への負担
治療方針によって、身体への負担や通院頻度、費用は大きく異なります。
- 高刺激法(性腺刺激ホルモン使用)
1回の採卵で多数の卵子を確保し、複数回の移植を目指します。効率は良いですが、卵巣への負担は大きくなります。 - 自然周期(低刺激法)
自然な排卵リズムに合わせるため、採取できる卵子は通常1個です。身体への負担は少ないですが、毎回の採卵が必要になる場合があります。
ご自身の体質やライフスタイルに合わせ、医師と相談の上で「納得できる方法」を選ぶことが大切です。
5. 費用と保険適用について
(2022年4月改定)
2022年4月より、人工授精等の一般不妊治療に加え、体外受精・顕微授精などの基本治療にも健康保険が適用されています。
保険適用の主な条件
- 治療開始時の女性の年齢が43歳未満。
- 回数制限:40歳未満は通算6回まで、40歳以上43歳未満は通算3回まで(1子につき)。
- パートナーとの婚姻関係(事実婚含む)や、治療説明への同席などが要件となります。
原則3割負担となりますが、「先進医療」として認められるオプション治療は保険外(自費)との併用が可能です。また、自治体による助成金制度が利用できる場合もありますので、最新情報を確認しましょう。
まとめ
身体の声を聴きながら進むために
不妊治療は、時に出口の見えないトンネルのように感じられるかもしれません。 しかし、西洋医学という「地図」と、東洋医学という「羅針盤(身体感覚)」の両方を持つことで、迷いを減らし、納得感を持って前に進むことができます。
当院では、原因不明とされる不調であっても、身体全体のバランスを読み解き、必要最小限の刺激で本来の力を引き出すお手伝いをしています。即効性だけを求めるのではなく、ご自身の身体と深く向き合いたい方は、ぜひ一度ご相談ください。








ホルモン値や器官の構造的な問題を数値や画像で捉える。
ホルモン剤を用い、卵子の発育を促す。
人工授精や体外受精など、受精のプロセスを物理的にサポートする。