東洋医学講座 439 病気の原因は何か 体質と病因

東洋医学講座 439

食べすぎが「腎」を壊す?
脾旺ひおうタイプが陥る「土剋水」の病理と
19の未病サイン

「自分は胃腸が強いから、いくら食べても大丈夫」。

そう過信して、つい食べすぎてしまうことはありませんか?東洋医学では、胃腸が丈夫であること自体は素晴らしい長所ですが、その力を使いすぎると、全く別の臓器である「じん」に深刻なダメージを与えてしまうと考えます。本稿では、消化力が強い「脾旺ひおうタイプ」の人が陥りやすい過食の罠と、それが生命力の源である腎を抑制してしまう「土剋水どこくすい」のメカニズム、そして身体が発する数々の未病サインについて、身体全体の繋がりから深く読み解いていきます。

1. 脾旺タイプと「土剋水どこくすい」の病理

脾旺タイプとは、五臓のなかで消化吸収を司る「」の系統に最も力がある体質を指します。このタイプの人は、生まれつき消化力に優れているという強力な特徴を持っています。

しかし、人間は自分の得意な機能を無意識に使いすぎてしまう傾向があります。消化力が強いため食欲も旺盛になり、結果として「過食」に陥りやすいのです。過食を続けると、脾系が過剰に亢進し、五臓のエネルギーバランスが大きく崩れます。

この時、最も深刻な影響を受けるのが「腎系」です。五行の法則において、脾(土)は腎(水)を抑制する関係にあります。強大になりすぎた土のエネルギーが、水を極度にせき止め、痛めつけてしまうのです。これを土剋水どこくすいと呼びます。つまり、胃腸の酷使(過食)は、回り回って生命力や老化に関わる「腎」の機能を低下させてしまうのです。

2. 複雑に絡み合う不摂生の波及

一病理の連鎖は「土剋水」だけに留まりません。その不摂生の内容や期間、過労の度合いによって、他臓への影響は多岐にわたります。

  • 肝系への逆剋(土侮木)
    本来、肝(木)は脾(土)を抑制する関係(木剋土)ですが、脾の力が強大になりすぎると、逆に肝系がダメージを受ける逆剋ぎゃくこく土侮木どぶもく)」という現象が起こり、肝系統の疾病を発しやすくなります。
  • 脾系自体の崩壊
    丈夫だからといって長年にわたり不摂生(過食)を続けていれば、やがて全身の機能が低下し、最終的には健康ランクが保てなくなり、自慢の「脾系統」自体に深刻な疾病を発することになります。つの臓器の機能低下は、必ず他の臓器へと波及します。その波及の仕方には、人間関係に似た法則があります。

3. 軽度の機能低下から発する「腎系」の症状

脾の亢進によって腎系が「土剋水」のダメージを受け、機能低下を始めた初期段階(未病)では、以下のような多彩な症状が現れます。一見すると関係なさそうな症状も、すべて腎の弱り(腎虚)に端を発しています。

  1. 全身・運動器
    根気がなくなる、腰から下がだるい、足腰の関節が重だるい、背筋・首筋が硬く凝って重い、じっと同じ姿勢をとっているのが苦痛、ゴロゴロ横になりたがる。
  2. 泌尿器・生殖器
    頻尿になりやすい、生理が不順になる、不正なおりものを生じる。
  3. 頭部・感覚器
    抜け毛が多くなる、虫歯が増える・歯槽(歯ぐき)が弱くなる、のどがイガイガ・チクチクする、耳鳴りが起こる、目がかすむ、目の周囲にむくみが出る。
  4. 精神・神経
    警戒心が強くなり、ちょっとのことで驚く・ビクビクする(腎は「恐れ」の感情を司るため)。
  5. その他
    血圧に変動を起こす、下腹部が張る・ガスが充満する、口臭を発しやすくなる、異常に喉が渇いて水を欲しがる。

4. 重度な機能低下から発する
「腎系」の疾病群

上記のサインを無視して不摂生を続けると、機能低下は重症化し、以下のような具体的な疾病へと発展します。

  1. 耳鼻咽喉関係
    口内炎をはじめとするすべての耳鼻咽喉疾患。
  2. 歯の関係
    虫歯や歯周病をはじめとするすべての歯の疾患(腎は骨を司り、歯は骨の余りであるため)。
  3. 泌尿生殖関係
    尿道炎をはじめとするすべての泌尿生殖器疾患。
  4. 脈管関係
    脳血栓をはじめとするすべての脈管疾患(腎水枯渇による血の滞りなど)。
  5. 骨・関節関係
    関節炎をはじめとするすべての骨・関節疾患。
  6. 頭髪関係
    脱毛症をはじめとするすべての頭髪疾患。
  7. 体液関係
    膠原病をはじめとする免疫・体液疾患。
  8. 腎臓関係
    腎炎をはじめとするすべての腎臓疾患。
  9. 眼科関係
    白内障をはじめとするすべての眼疾患。

5. 対症療法ではなく
「身体全体」を読み解く

以上が腎系統の病症です。(※肝系の病症は肺旺タイプの項、脾系の病症は肝旺タイプの項をご参照ください)。

実際の臨床現場では、このように腎系統の症状だけが単独で現れることは少なく、腎系、肝系、脾系と複雑に重なり合った病症になる場合がほとんどです。今回は理解しやすくするために単調に類別しましたが、現実の発病の仕方は多種多様です。

しかし、身体は決してデタラメに不調を起こしているわけではありません。「木・火・土・金・水」の法則性を持った系統的なものです。

「抜け毛にはこの薬」「腰痛にはマッサージ」といった表面的な対症療法では、根本的な解決には至りません。基礎となる陰陽五行の法則を知り、一つひとつの症状をパズルのように組み合わせることで、複雑に絡み合った不調も理路整然と判別することができます。患者様ご自身が身体の仕組みを深く理解し、納得することが、治癒に向けた「回復の余白」を生み出す第一歩なのです。

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