うつ病や痙攣も「肝」の異常?東洋医学で読み解く重度な肝機能低下と五行の制御法
「精神的な気分の落ち込み」と「手足の痙攣や腱鞘炎」。
一見すると全く関係のない心と体の不調ですが、東洋医学ではこれらの根底に共通する「ある臓器」の異常を見出します。特に、呼吸器が強い「肺旺タイプ」の人が不摂生を重ね、その負担が「肝」を激しく剋傷(抑制)した場合、筋腱や神経に重度な症状が現れやすくなります。
本稿では、精神疾患(うつ・躁)が発症するメカニズムや、痛み・痙攣に対する鍼治療の論理的な原理など、五行説を用いた東洋医学の深い治病観について解説します。
1. 筋・腱と神経の病はすべて「肝系統」から
肺旺タイプが陥りやすい重度な疾病は、主に肝系がダメージを受けた結果として現れます。
腱鞘炎をはじめとする筋や腱の病気は無数に病名がつけられていますが、病名を追うのではなく「根本の考え方」を知ることが重要です。東洋医学において、筋肉や腱のトラブルはすべて「肝系統」の異常からきています。
精神、知覚神経、運動神経、自律神経のすべてを管轄するのも「肝系」です。したがって、精神病のほとんどは、肝系が「中庸(バランスの取れた状態)」の働きから逸脱したために起こる変動と捉えます。
2. 精神疾患と五臓の絡み合い ~ 躁病とうつ病の違い
端的に「精神病はすべて肝機能低下である」と片付けてしまうのは早計です。肝系の異常をベースに、そこに「どの系統の異常が加わっているか」によって、現れる症状(病気の種類)が変わるからです。
- 躁病のメカニズム
肝系の変動に、「心系(火)」の機能低下や亢進が加わると、笑ってばかりいたり、異常に気分が高揚したりする躁状態になります。 - うつ病のメカニズム
一方、肝系の変動に、「腎系(水)」の機能低下や亢進(収斂・引きこもる性質)が加わると、黙って隅の方でじっと座り込むようなうつ状態に変わります。
このように、複雑な精神疾患も五臓のネットワークの絡み合いとして論理的に展開して考えることができます。
3. 痙攣や痛みを止める「五行のコントロール術」
知覚神経や運動神経の異常である「痙攣」や「痛み」は、肝系が一過性に亢進(働きすぎ)している状態です。これらは陽的な働き、すなわち外に向かう遠心的な力が暴走している状態と言えます。これを鎮めるには、五行の相生相剋を利用したコントロールが必要です。
- 鍼治療の原理(金気による抑制)
痙攣や痛みを止めるのに、鍼は極めて高い効果を発揮します。これは鍼という金属が「金気(内に向かう求心性・陰遁の働き)」を持ち、暴走している「木(肝系)」を抑え込むからです(金剋木)。一時的に患部を冷やしたり、興奮した精神を冷静にさせるのも、同じ金気の働きです。 - 砂糖水の原理(土気による弛緩)
例えば胃痙攣を起こした時に砂糖湯を飲むことがあります。砂糖(甘味)は「土性」の性質を持ち、筋肉を「緩める」働きがあります。興奮して引きつっている肝(木)に対して、土気を与えて弛緩させるのです。これは夫婦に例えるなら、夫が激昂しているのを妻が「まあまあ」となだめるようなアプローチです。
その他にも、水(腎)の力を加えて母が子を養うように体力をつける方法や、火(心)の力を利用して適度な運動で刺激を与え、停滞を流す方法など、様々なアプローチが存在します。
4. 相生相剋の柔軟な思考と、全体ランクの低下
「痛みを抑えるには金剋木(金属による抑制)しかない」と頭を固くしてはいけません。相生・相剋という現象は、「金剋木」や「木剋土」といった決められた関係性の中だけで発生するわけではありません。条件次第で、あらゆる五行の間に相互作用が生まれます。相生相剋論の基本を理解した上で、柔軟に思考を展開させることが臨床において重要です。
最後に、これら神経系や眼科、皮膚、肝・胆のうの重度な疾病が起こっている場合、決して「肝系統だけ」が極度に低下しているわけではありません。身体全体の体力(健康ランク)が「病体ランク」まで落ち込んだ上で、最も負担のかかりやすい肝系統に決定的な破綻が現れている状態なのです。局所の症状を消すことだけでなく、全体の底上げを図る視点が不可欠です。













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