三叉神経痛(顔の痛み)

三叉神経痛の原因と症状、そして鍼灸による痛みの緩和とセルフケア

三叉神経痛

「顔に電気が走るような、耐え難い痛みが突然襲ってくる…」
「食事や歯磨き、洗顔といった日常の何気ない動作が痛みの引き金になる…」

三叉神経痛さんさしんけいつうは、顔の感覚を司る三叉神経に問題が生じ、顔面に特に激しい痛みを引き起こす神経の病気です。まるで稲妻が走るような、あるいはナイフで刺されるような鋭い痛みが、数秒から数分間、繰り返し起こることが特徴です。

この辛い痛みから解放されるため、近年、西洋医学の治療と並行して、あるいは薬物療法が難しい場合の選択肢として、鍼灸治療が注目を集めています。

この記事では、三叉神経痛とは何か、その原因から症状、そして鍼灸による痛みの緩和と根本的な改善への道筋を、分かりやすく解説していきます。

【目次】

  1. 三叉神経痛とは何か?~激しい顔の痛みの正体~
    • 三叉神経痛の主な症状と特徴
    • 三叉神経の3つの枝と痛みの部位
    • 三叉神経痛が起こる主な原因
    • 【重要】 まずは専門医による診断を
  2. 三叉神経痛に対する鍼灸治療
  3. 痛みの改善と再発予防のための生活習慣
    • 日常生活で気をつけるべきこと
    • 運動とストレッチの重要性
    • ストレス管理とリラクゼーション
  4. 後遺症や慢性的な痛みとの向き合い方
  5. 三叉神経痛の予防策

1.三叉神経痛とは何か?~激しい顔の痛みの正体~

三叉神経痛の主な症状と特徴

三叉神経痛

俗に「顔面神経痛」といわれることもありますが、正確には三叉神経痛と呼ばれるこの症状は、中年の、特に女性に多く見られる傾向があります。

  • 痛みの性質
    • 非常に激しく、突発的な痛みです。
    • 「電気が走るような」「ナイフで刺されるような」「焼けるような」と表現される、鋭く短い痛みが特徴です。
    • 発作は数秒から長くても数分で治まりますが、これを一日に何度も繰り返すことがあります。
  • 痛みの部位
    • 顔の片側(特に右側が多い)に起こることがほとんどです。額、目の周り、頬、あご、歯ぐきなど、三叉神経が支配する領域に痛みが出ます。
    • 痛みが激しいと、頬から上あご、時には後頭部から肩にかけて痛みが広がるように感じることもあります。
  • 発作のきっかけ(誘発因子)
    • 食事(噛む動作)、歯磨き、洗顔、ひげそり、化粧、会話、あるいは冷たい風にあたるなど、顔への軽い接触や刺激が引き金となって発作が起こることがあります。
  • 発作以外の時期
    発作が治まると痛みは完全に消え、普段は健康そのものであることもこの病気の特徴です。

三叉神経痛の初期には、ただ顔の半分に何となく鈍痛を覚える程度の場合もあります。しかし、症状が進んでくると、身体を動かすだけでも激痛が起こり、口もきけず、食事もとれないといった深刻な状態になることがあります。 一度発作が起こると再発しやすく、悪化すると夜も眠れなくなるほどの痛みで、常に発作への不安感に襲われ、精神的に疲れ果ててしまう方も少なくありません。

三叉神経の3つの枝と痛みの部位

顔の左右にある三叉神経は、それぞれ脳から出てから3つの枝に分かれています。どの枝に問題が起きているかによって、痛む場所が異なります。

  • 第1枝(眼神経がんしんけい
    主に額、眉間、目、まぶた、鼻筋の感覚を支配します。
  • 第2枝(上顎神経じょうがくしんけい
    主に頬、上あご、上唇、上歯ぐき、鼻の横の感覚を支配します。
  • 第3枝(下顎神経かがくしんけい
    主に下あご、下唇、下歯ぐき、舌の一部、耳の前、こめかみの感覚を支配します。

この中で、最も痛みが起こりやすいのは第3枝の領域です。鍼灸治療の前には、どの枝に痛みが出ているかを、圧痛点(押して痛む場所)などで丁寧に確認します。
例)「睛明」や「攅竹」に強い圧痛があれば第1枝、「四白」なら第2枝、「下関」なら第3枝の神経痛、といった具合です。

三叉神経痛が起こる主な原因

三叉神経痛がなぜ起こるのか、その明確な発症メカニズムはまだ完全には解明されていませんが、多くの場合、脳幹から三叉神経が出てくる根元の部分で、正常な血管(動脈)が神経に接触し、圧迫することが原因と考えられています。 加齢に伴う血管の動脈硬化などが、この圧迫を引き起こしやすくすると言われています。 まれに、脳腫瘍や多発性硬化症といった他の病気が原因で起こる「症候性三叉神経痛」もあります。

【重要】まずは専門医による診断を

顔に激しい痛みが現れた場合、自己判断は非常に危険です。 まずは神経内科脳神経外科といった専門の医療機関を受診し、MRIなどの画像検査を受けて、痛みの原因を正確に診断してもらうことが最も重要です。 脳腫瘍など他の重篤な病気が隠れていないかを確認し、医師による適切な治療方針(薬物療法、神経ブロック、手術など)について指導を受ける必要があります。

ひごころ治療院の鍼灸治療は、これらの専門医による診断と治療を尊重し、連携を取りながら、痛みの緩和や体質改善のサポートとして行うものです。

2.三叉神経痛に対する鍼灸治療

鍼灸治療は、三叉神経痛の激しい痛みを緩和する有効な手段の一つとして、近年注目されています。

鍼灸が三叉神経痛の緩和に効果的な理由

  • 神経の興奮を鎮める
    鍼や灸の刺激は、過敏になっている三叉神経の興奮を直接的・間接的に鎮め、痛みの信号を抑制する効果が期待できます。
  • 筋緊張の緩和
    痛みによってこわばった顔面や首、肩の筋肉の緊張を緩め、二次的な血行不良や痛みの悪化を防ぎます。
  • 血行促進
    鍼灸治療は、神経周囲の血流を改善することで、神経への圧迫を軽減したり、神経の栄養状態を改善したりする可能性があります。
  • 鎮痛物質の分泌促進
    鍼刺激が、脳内でエンドルフィンなどの痛みを抑制する物質の分泌を促すメカニズムも示唆されています。

近年の科学的な研究も進められていますが、三叉神経痛に対する鍼灸治療の有効性については、さらなる研究が期待されています。

症状緩和に効果が期待できる主要なツボの例

三叉神経痛の痛む枝や症状に合わせて、以下のツボを中心に施術します。

顔面  「睛明せいめい」、「攅竹さんちく」、「陽白ようはく
    「四白しはく」、「巨髎こりょう」、「地倉ちそう
    「下関げかん」、「顴髎」、「頬車きょうしゃ
横首  「翳風えいふう」、「大迎だいげい」、「天鼎てんてい
手部  「合谷ごうこく

具体的な鍼灸治療法(鍼・灸・マッサージ)

  1. 痛みが非常に強く、顔に触れるのもつらい場合
    • まずは顔から離れた後ろ首や肩の治療を先に行います。「天柱てんちゅう」、「風池ふうち」、「風門ふうもん」、「肩井けんせい」といったツボを刺激し、首や肩、背中の筋肉の緊張を徹底的に緩めます。この刺激の効果で、顔の過敏性が少し和らぎ、顔面に触れることができるようになったら、次のステップに進みます。
  2. 顔面部への直接アプローチ
    • 第1枝(額・目元)に痛みがある場合
      睛明」、「攅竹」、「陽白」、そして額にある「神庭しんてい」などを刺激します。合わせて、前頭筋のマッサージ(額の中心から耳の方向へ、眉と平行に優しく指圧)も行い、前頭部や上まぶたの痛みを和らげます。
    • 第2枝(頬・上あご)に痛みがある場合
      四白」、「巨髎」、「地倉」などを刺激します。特に「四白」は神経の枝が皮膚のすぐ下に出ているポイントなので、丁寧に刺激します。合わせて、目頭から耳や唇の端へ向かうように、親指で優しくマッサージし、頬や上唇、上歯ぐきの痛みを緩和します。
    • 第3枝(下あご・耳元)に痛みがある場合
      下関」、「顴髎」、「頬車」を刺激します。さらに、首の「大迎」、「翳風」、「天鼎」などを合わせて刺激することで、側頭部や耳の前、下唇、下歯の痛みに効果を発揮します。
  3. 全身調整のツボ
    • いずれの場合も、痛みを軽減する目的で、手の「合谷」への処置を加えることが非常に効果的です。

三叉神経痛が重症である場合は、マッサージや指圧よりも、より深部にアプローチできる鍼治療が特に効果を発揮しやすいと考えられます。

鍼灸治療を受ける上での注意点

  • 治療の目的
    三叉神経痛の鍼灸治療は、主に神経の異常な興奮を抑えることが目的です。マッサージや指圧を行う場合も、リラクゼーション目的というよりは、的確なポイントにしっかりと圧を加えることが重要になります。
  • お灸の活用
    顔面部への施術となるため、火傷の痕を残さない温灸おんきゅう知熱灸ちねつきゅう、あるいは薄切りにしたニンニクやショウガを介して温める隔物灸かくぶつきゅうなどが用いられます。心地よい温熱刺激は、血行を促進し、痛みの緩和に役立ちます。
  • 治療期間中の過ごし方
    治療期間中は、心身の疲労を避け、規則正しい生活を送ることが、回復を早める上で大切です。

3.痛みの改善と再発予防のための生活習慣

鍼灸治療と並行して、日常生活での工夫を心がけることで、痛みの誘発を防ぎ、症状の改善をサポートします。

  • 日常生活で気をつけるべきこと(誘発因子の回避)
    • 寒冷刺激を避ける
      冷たい風に直接当たらないように、冬場はマフラーやマスクで顔を保護しましょう。
    • 急な温度変化を避ける
      寒い屋外から暖かい室内に入る際など、急な温度変化に注意しましょう。
    • 食事の工夫
      硬いものを噛む動作が痛みを誘発する場合、柔らかく調理した食事を摂るようにしましょう。
    • 優しい洗顔・歯磨き
      顔を強くこすったり、歯ブラシが患部に強く当たったりしないよう、優しく行いましょう。ひげそりも同様に注意が必要です。
  • 運動とストレッチの重要性
    適度な運動やストレッチは、全身の血行を促進し、筋肉の緊張を和らげ、ストレス解消にも繋がります。ウォーキングや軽いストレッチなど、顔に強い刺激や振動が加わらない、無理のない範囲で行うようにしましょう。
  • ストレス管理とリラクゼーション
    ストレスは痛みを増強させる大きな要因です。十分な睡眠を確保し、趣味の時間を持つ、瞑想や深呼吸などのリラクゼーション法を取り入れるなど、日頃からストレスを溜め込まないように工夫することが大切です。

4.後遺症や慢性的な痛みとの向き合い方

  • 三叉神経痛の後遺症とは
    三叉神経痛の治療後にも、顔面の感覚が鈍くなったり(しびれ、麻痺感)、逆に触れると過敏に感じたり、あるいは慢性的な鈍い痛みが残ったりすることがあります。これは、元の神経へのダメージや、手術などの治療の影響が考えられます。
  • 後遺症を緩和するためのアプローチ
    鍼灸治療は、このような後遺症に対しても、感覚異常の改善や慢性的な痛みの緩和に有効な場合があります。神経の回復を促したり、周囲の筋肉の緊張を和らげ、血行を改善したりすることで、症状の軽減を目指します。
  • 慢性痛との向き合い方
    慢性的な痛みと上手に付き合っていくためには、痛みをコントロールするための様々な方法を試みることが重要です。薬物療法、神経ブロック、リハビリテーション、心理療法、そして鍼灸治療など、多角的なアプローチが有効となることがあります。焦らず、ご自身に合った方法を専門家と一緒に見つけていくことが大切です。

5.三叉神経痛の予防策

三叉神経痛の明確な予防法は確立されていませんが、発症のリスクを減らし、再発を防ぐために、以下の点を心がけることが推奨されます。

  • 早期発見と対処
    顔に軽い痛みや違和感といった初期症状に気づいたら、放置せずに早めに医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが、症状の悪化や慢性化を防ぐ上で最も重要です。
  • 生活習慣による予防
    前述の通り、日常生活で痛みを誘発する要因を避け、身体を冷やさないようにし、バランスの取れた食事、適度な運動、質の高い睡眠、ストレス管理などを通じて、全身の健康状態を良好に保つことが、結果として三叉神経痛の発症リスクを低減する可能性があります。

ひごころ治療院では、あなたのつらい痛みに真摯に向き合い、鍼灸治療を通じて、症状の緩和と穏やかな日常を取り戻すためのお手伝いをさせていただきます。

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