肋間神経痛

肋間神経痛の原因 ーその症状と見分け方、鍼灸によるアプローチ

肋間神経痛

「息を吸うと、胸や脇腹に電気が走るような痛みが…」
「咳やくしゃみをすると、肋骨に沿って鋭く痛む…」
「これって心臓の病気?それともただの筋肉痛?」

突然襲ってくる胸や背中の痛みは、大きな不安を伴います。その痛みの原因の一つが肋間神経痛ろっかんしんけいつうです。

この記事では、肋間神経痛の症状や原因、そして東洋医学に基づく鍼灸治療によるアプローチについて詳しく解説します。また、危険な胸の痛み(狭心症など)との見分け方についても触れていきます。

【目次】

  1. 肋間神経痛とは?~その原因と特徴的な症状~
    • 肋間神経痛が起こるメカニズム
    • 筋肉痛との見分け方
    • 診断のポイントとなる3つの圧痛点
  2. 肋間神経痛に対する鍼灸治療
  3. 関連する症状への対処法
    • 胸がつっかえるような感じがする場合
    • 背中全体に痛みがある場合
  4. 【重要】体からのSOSサイン~肋間神経痛と間違えやすい病気~
    • 軽い運動で左胸が痛む場合は要注意(狭心症の可能性)
    • 狭心症予防のアドバイスと受診すべき診療科

1.肋間神経痛とは?~その原因と特徴的な症状~

肋間神経痛が起こるメカニズム

胸を痛がる男の人

肋間神経は、背骨(胸椎)から出て、左右の肋骨に沿って、背中から脇腹、そして胸の前面まで走っている神経です。 肋間神経痛とは、この神経が何らかの原因で刺激されることにより、神経の走行に沿って、胸やお腹に帯状または半円状に、発作的な強い痛みが起こる症状を指します。

原因がはっきりしている場合もありますが(例:脊椎の病気、帯状疱疹、肋骨骨折、胸膜炎の癒着など)、原因が特定できない場合も少なくありません。

筋肉痛との見分け方

胸の痛みの原因が筋肉痛なのか肋間神経痛なのかを見分ける、一つの簡単な目安があります。

  • 肋間神経痛の特徴
    1. 息を吸うときに痛みが強くなり、息を吐くときには比較的楽になる。
    2. 呼吸に伴って痛みを感じるのに、肩や腕を動かしても痛みは変わらない。
    3. 胸の片側(左側が多いが右側の場合も)、乳房の下から脇腹、さらには背中からお腹にかけて「ツーン」と走るような鋭い痛みが特徴。

診断のポイントとなる3つの圧痛点

真性の肋間神経痛には、診断の手がかりとなる特徴的な3カ所の圧痛点(押すと特に強く痛むポイント)が現れることがあります。

  1. 背骨のすぐ脇(脊柱傍点)
    痛む神経が出ている背骨のすぐ横。
  2. わきの下(側胸点)
    脇の下のライン上。
  3. 胸骨のすぐ脇、または腹直筋のすぐそば(前胸点)
    胸や腹部の前面。

これらのポイントを軽く押しただけで耐えられないほどの痛みがある場合、肋間神経痛の可能性が高まります。そして、これらの圧痛点は、とりもなおさず鍼灸治療における重要な治療ポイントにもなります。

胸の痛みは、肋間神経痛だと思い込んでいたら、実は肋膜炎狭心症心筋梗塞といった重篤な病気だったという例も少なくありません。痛みが続く場合や、いつもと違うと感じる場合は、自己判断せずに必ず医療機関を受診してください。

2.肋間神経痛に対する鍼灸治療

鍼灸が肋間神経痛に効果的な理由

  • 神経の興奮を鎮める
    鍼や灸の刺激により、過敏になっている肋間神経の興奮を直接的に鎮め、痛みの信号を抑制します。
  • 筋緊張の緩和
    神経を圧迫している可能性がある、背中や胸、脇腹の筋肉の緊張を深部から緩めます。
  • 血行促進
    滞っている患部の血流を改善し、発痛物質の排出を促し、組織の回復を助けます。
  • 自律神経の調整
    ストレスや疲労が関与している場合、自律神経のバランスを整えることで、痛みが起こりにくい身体の状態を目指します。

治療のポイントとなる主要なツボ(圧痛点)

肋間神経痛の治療では、特定のツボ名にこだわるというよりも、前述した3つの圧痛点(背骨の脇、わきの下、胸の脇)を最も重要な治療ポイントとして捉えます。

これらの圧痛点の位置は、多くの場合、東洋医学の経穴ツボ)と一致しますが、一人ひとりの身体の反応を丁寧に見極め、最も効果的なポイントにアプローチします。

具体的な鍼灸治療の流れ

  1. まず、患者様には痛む方の脇腹を上にして、横向きに寝ていただきます。
  2. 背骨のすぐ脇にある圧痛点を探り、鍼や灸でそれぞれ刺激していきます。
  3. 脇の下の圧痛点を刺激します。ここはデリケートな部分なので、強すぎる刺激にならないよう注意します。
  4. 胸骨のすぐ脇、または腹直筋のそばにある圧痛点を探し、刺激します。
  5. 最後に、患者様に座っていただき、施術者が両脇の下に腕を差し入れ、患者様の深呼吸に合わせて胸郭の上下運動を優しくサポートします。これを5~6回繰り返し、痛む神経をゆっくりと伸ばすイメージで行います。

治療後の注意点とセルフケア

  • 粒鍼の活用
    治療後に痛みが強いところに、マグレインなどの粒鍼円皮鍼)を貼っておくと、持続的な刺激によって治療効果が長持ちすることが期待できます。
  • 温熱療法の活用
    ご家庭でドライヤーなどを使い、痛む部分を心地よい程度に温める熱風治療でも、痛みがかなり和らぐことがあります。(火傷には十分ご注意ください。)
  • 鍼治療の効果
    肋間神経痛には、鍼治療が特に効果を発揮しやすいと考えられています。上記の圧痛点や関連するツボへ的確にアプローチします。また、必要に応じて低周波の電気(パルス)療法を併用することもあります。

3.関連する症状への対処法

胸がつっかえるような感じがする場合

肋間神経痛に伴って、胸がつっかえるような不快感がある場合、その場所によってアプローチが変わります。

  • 胸全体が苦しくてつっかえる場合
    胸の中央にある「膻中だんちゅう」が重要なツボです。さらに、背中の「厥陰兪けついんゆ」、「膏肓こうこう」、手の「内関ないかん」、「郄門げきもん」などを刺激し、気の巡りを整えます。
  • みぞおちがつっかえる場合
    腹部の「鳩尾きゅうび」、「巨闕こけつ」、「不容ふよう」、「中脘ちゅうかん」、「天枢てんすう」などを刺激します。背中の「肝兪かんゆ」、「胆兪たんゆ」、「脾兪ひゆ」、「胃兪いゆ」、足の「足三里あしさんり」、「三陰交」も合わせて用いることで、消化器系の働きを整え、つかえ感を取り除きます。指圧でも構いません。

背中全体に痛みがある場合

この場合は、特定のツボというよりも、背骨の両側を縦に走っている筋肉(脊柱起立筋群)を、首の付け根からお尻まで、全体的に丁寧に刺激していきます。特に痛みを感じる箇所は念入りにアプローチします。 第1胸椎の横にある「大杼だいじょ」は、背中の痛みに欠かせないツボの一つとして、必ず刺激を加えるポイントです。

4.【重要】体からのSOSサイン~肋間神経痛と間違えやすい病気~

軽い運動で左胸が痛む場合は要注意(狭心症の可能性)

胸の痛み」は、時に命に関わる病気のサインである可能性があり、注意が必要です。特に狭心症きょうしんしょうとの鑑別は重要です。

狭心症とは?
心臓自身に栄養を送る血管(冠動脈)が動脈硬化などで狭くなり、運動時などに心臓の筋肉への血液や酸素の供給が一時的に不足する状態です。

  • 狭心症の痛みの特徴
    • 安静時は何ともないのに、駅の階段を駆け上がるなど、ある程度身体を動かすと、左胸を中心に締め付けられるような、圧迫されるような痛みが現れる。
    • 休むと数分で痛みが治まるのが大きな特徴です。しかし、この「休めば治る」というのが危険なサインでもあります。
    • 最悪の場合、狭心症が引き金となって心筋梗塞を起こし、命に関わることもあります。
  • 鑑別のポイント
    ピンポイントで「胸のココが痛い」と指をさせるような鋭い痛みは、肋間神経痛の可能性が高いと言われています。一方、狭心症の痛みはもう少し広い範囲で「このあたりが締め付けられる」ように感じることが多いです。 また、狭心症では息切れ(心不全の兆候)が現れ、肋間神経痛では呼吸に合わせて痛みが変化する、という違いもあります。

狭心症予防のアドバイスと受診すべき診療科

  • 予防のアドバイス
    狭心症の主な原因は動脈硬化です。血管にダメージを与えるタバコやお酒を控え、塩分や脂肪分の多い食事を見直し、適度な運動を心がけることが予防に繋がります。

何科に行くべき?

内科/循環器内科

少しでも「おかしいな」と感じる胸の痛みがあれば、まずはこれらの医療機関を受診し、検査を受けることを強くお勧めします。

どんな場合でも、胸の痛みは念のために専門医の診察を受けることが大切です。ひごころ治療院では、医師の診断を尊重し、連携を取りながら、つらい症状の緩和をサポートさせていただきます。

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