不妊症

ピンクのバラ

症状

正常な夫婦生活を続けながら、2年以上子供のできない状態を不妊症といいます。不妊症の原因は女性側ばかりにあるとは限らず、むしろ、男性側の原因が、不妊の原因の40~60%を占めるともいわれています。

男性側の不妊原因の多くを占めるのが、精子をつくる機能の障害です。精子の数が少ない場合を乏精子症、精子が全くない場合を無精子症といいます。また、精子が正常につくられても、性液に混ざらない場合や、精子の運動能力に問題がある場合にも、不妊の原因となります。

女性の不妊の原因は、排卵障害、卵管障害、子宮障害に大別されます。

排卵障害は、ホルモンのバランスがくずれるなどして、卵子を含む卵胞がうまく育たなかったり、排卵されなかったりする状態です。

卵管障害は、卵管が閉じたり幅がせまくなったりすることで、精子が卵子に出会えなくなる状態であります。

感染症の性器クラミジアなどで多く見られます。月経血の逆流などで子宮内膜組織が卵管、腹膜、あるいは卵巣に生着し、癒着など引き起こす子宮内膜症も不妊を引き起こす要因であります。

子宮障害は、子宮体部の障害と子宮頚管の障害に分けられます。子宮体部に子宮筋腫などの腫瘤ができると精子の遡上が障害されたり、受精卵が着床できず、不妊になることがあります。また、子宮頚管を満たす頸管粘液の異常(粘液の減少、粘液の酸性化、精子に対する抗体混入)によっても、精子の遡上が妨げられることがあります。

ともかく、男性なら泌尿器科、女性なら婦人科などで専門医に診てもらい、不妊の原因を突き止めることが先決であります。何か器質的な障害がある場合には、意志の適切な治療を受けることが第一であります。

鍼灸治療は、体の機能を調整し、円滑にすることを重点に置きます。

鍼灸治療

主要なツボ

背中    「膈兪」、「肝兪」、「脾兪」
腰・臀部  「腎兪」、「次髎」、「中髎」、「膀胱兪」、「胞肓」
腹部    「中脘」、「肓兪」、「気海」、「中極」
足部    「曲泉」、「陰陵泉」、「三陰交」、「復溜」、「太谿」、「太衝」

などがポイントになります。

治療法

上記のツボにマッサージや指圧を行ってもよいですが、鍼や灸治療のほうが効果を示します。灸の場合は、それぞれのツボから選択して、1日1回、米粒大または半米粒大のもぐさを1ヶ所に3~5壮ずつすえます。5日間連続すえて、2日休むという方法で長期的に行います。

女性で、生理が早くなりがちな人や日数が1週間以上に及ぶ人は、すねの内側の「中都」を加えます。ひどい冷え性であれば、足の裏の「湧泉」に治療を加えますと、効果がてきめんです。

妊娠治療には、ショウガ灸も効果があります。ショウガは直径2.5㎝、厚さ0.5㎝のひねショウガをツボの上に置き、灸をのせて火をつけます。

鍼治療は、腰のツボを中心に刺激します。不妊症の人は腎経や肝経の経絡に痛みなどの反応があることが多いです。したがって、それらの経絡上のツボから選んで治療を行うと、効果が期待できます。

西洋医学での不妊の治療

人工授精

西洋医学での不妊の治療は不妊の原因を取り除いたり、人工的に受精させたりする医療技術であります。

人工授精は、男性の性液を細いチューブを使って女性の膣や子宮内に注入し、自然な受精を待つ方法です。精液中の精子の数や運動能力に問題がある場合に有効で、数の限られた健康な精子を無事子宮まで送り出すことができます。人工授精では、精子が無事卵管の端まで行きますが、卵と受精できるか保証はありません。子宮に注入したあとは神のみぞ知る領域になります。

体外受精・顕微授精・凍結融解胚移植

近年、広く応用されるようになっている不妊治療が、生殖補助医療(Assisted Reproductive Technology:ART)であります。

体外受精と顕微授精、さらにこれらの方法で複数の胚が得られた場合、余剰胚を凍結保存し、凍結後に移植する凍結融解移植などをまとめてARTと呼ばれています。

最近はゼリー状の状態で冷却保存するビリフィケーションと呼ばれる方法が用いられ、妊娠率の向上寄与しています。

体外受精は卵巣から取り出した卵を専用の皿の上に置き、運動性のある精子を加え体外で受精させるという方法であります。この方法では、しっかりと受精が確認されたのち、適当な時期まで育てた胚を子宮に届けます。精子と卵子が出会って受精する場所である卵管に障害がある女性も妊娠の機会が得られます。

体外受精をさらに発展させたものが顕微授精です。その代表的な方法である細胞質内精子注入法は、顕微鏡下で、一つの卵子の細胞質の中に、直接一つの精子を注入するものです。

この方法では、たった一つの健康的な精子と卵子さえあればいいのです。不妊症の女性にとって朗報だったが、正常な精子の数が極端に少ない男性に在っては特にこの方法で自分の遺伝子を残す可能性が広がりました。

治療の際に排卵をうながす薬を使って、場合によっては10個以上の卵子が採取されることがあります。このとき移植されなかった受精卵を液体窒素の中で凍結保存し、以降の周期で移植するのが凍結融解胚移植です。

最近では、卵巣刺激で負荷のかかった卵巣や子宮を休ませる目的で、新鮮な胚一つも移植せずに、全て凍結することも行われています。凍結された胚は、半永久的に保存可能であるといわれています。

女性の年齢の上昇に伴って、染色体異常の卵子の割合は増えますが、その結果、体外受精や顕微授精で妊娠しても流産におちいることも多くなります。日本産婦人科学会の報告によりますと、2017年、体外受精や顕微授精による胚移植を受けた結果、出産に至った確率は30歳は21.9%、35歳は18.9%、40歳は9.3%、45歳では1.0%にまで下がっています。

また、費用については、ARTは医療保険適用外であります。年齢や所得、治療回数などの制限はありますが、助成金制度は設けられています。

ここで注意しなければならないことは、どのような卵巣刺激法を用いるかという点であります。それによっては成功率や費用も変わってきます。一般的な性腺刺激ホルモンを用いたARTの場合、1回の採卵で数個~10数個の卵子が採取され、数個の移植可能の胚が得られます。したがって、1回新鮮胚移植と、1~3回ほどの凍結融解胚移植が可能となり、累積妊娠率は上昇します。

一方、自然周期あるいはそれに準じた方法で採卵を試みた場合、採卵可能な周期は7~8割で、通常1個の卵子しか得られません。したがって、よくても1回の新鮮胚移植あるいは凍結融解胚移植しかできず、結果的に何度も採卵が必要になります。

免疫学から考える妊娠

不妊はなぜ起こるのか?

不妊の女性の末梢血の白血球分布を調べると、ほとんどの人に共通のパターンが認められます。顆粒球増多とリンパ球減少です。本来、妊娠可能な時期の若い女性は、色白でぽっちゃりしていてリンパ球の最も多い年代です。不妊の女性では、このパターンが崩れていることを意味しています。

顆粒球は交感神経支配下にあり、リンパ球は副交感神経支配下にあります。妊娠適齢期の若い女性は、適量のエストロゲン分泌によって性器の成熟とともに副交感神経優位の体調となっています。エストロゲンは主に胎盤から大量に分泌されると交感神経を刺激しますが、少量では副交感神経優位の体調になります。

このような若い女性のリンパ球優位パターンは、これから起こる妊娠ストレスを吸収するための準備だと考えられます。顆粒球減少により活性酸素放出が減少して色白となり、副交感神経は分泌現象を支配しているので肌は潤います。

交感神経緊張が不妊につながる

不妊の女性が顆粒球優位のパターンに逆転しているのは、交感神経緊張状態にあるためでしょう。

交感神経緊張状態を招く原因は、次のようなものが挙げられます。

・痛み止め(NSAIDs)使用による冷え・冷房などによる冷え・薄着による冷え・冷飲食・痩せすぎ・太りすぎ・心の悩み・働きすぎ・夜更かし・眼の疲れ・筋力低下・運動不足などです。

では、なぜ交感神経緊張状態が続き顆粒球増多が続くと不妊とつながっていくのでしょうか。顆粒球増多は必ず全身性に起こるので、卵巣、卵管、子宮などに顆粒球が集まり、粘膜の炎症を引き起こします、また、交感神経緊張は血流障害や分泌抑制も伴いますので、この炎症が助長されます。

これらの反応が強いときは、子宮内膜症、月経困難症、卵管炎、卵巣嚢腫などが引き起こされます。月経によって外に排泄されるべき落屑内膜が腹腔に停滞し、子宮内膜症が引き起こされます。血流障害は組織の繊維化を誘発するので、子宮筋腫を引き起こすことになります。子宮がんに進む可能性もあります。

これらの婦人科疾患から生体が逃れようとするときに、血流が回復し、痛みが生じます。血管拡張物質は痛み物質でもあるからです。プロスタグランジン、アセチルコリン、セロトニン、ヒスタミン、ロイコトリエンなどがあります。

痛み止めは病気をしだいに悪化させる

このように病気から回復しようとする血流反射は痛みを伴うために、痛み止め(NSAIDs)が処方されることが多く、これが月経痛や月経困難症が難治化する原因です。治療によって月経困難症は、子宮内膜症、子宮筋腫、卵管炎、卵巣嚢腫などに移行します。

卵巣嚢腫は血流障害、排泄障害、顆粒球増多によって、この臓器に化膿液が貯留した状態です。子宮内膜に顆粒球が増加すると受精卵の着床を阻害し、流産を引き起こします。そして、習慣性流産となるのです。

先に述べた交感神経緊張を招いている原因を除かない限り、病気は治癒しません。また痛み止めに使用は、痛みの発生をシーソーゲームにしていきますし、病気自体が悪化します。

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