高血圧の原因と鍼灸治療 ー 首の皮膚の変化にも注目!東洋医学のアプローチ
「最近、血圧が高めと指摘された…」
「薬だけに頼らず、体質から改善したい…」
「もしかして、この首のザラつきも関係あるの?」
高血圧症は、自覚症状がないまま進行することも多く、「サイレントキラー」とも呼ばれる注意が必要な状態です。 この記事では、高血圧の原因や症状、東洋医学の視点から見た身体のサイン(特に首の皮膚の変化)、そして鍼灸治療によるアプローチやご家庭でできるセルフケア(導引体操など)について詳しく解説します。
【目次】
1.高血圧症とは?~その原因と身体のサイン~
高血圧症の主な種類(本態性・二次性)
高血圧症とは、安静時の血圧が慢性的に正常値よりも高い状態をいいます。 原因によって、主に以下の2つのタイプに分けられます。
高血圧のサイン?首の皮膚のざらつきと東洋医学の体表反射
血圧計がなくても、身体のある部分の変化から血圧の上昇に気づくことができるかもしれません。東洋医学には「体表反射」という考え方があり、内臓や身体の内部の異常が、皮膚の表面に何らかの反応として現れるとされています。 例えば、皮膚本来の生き生きとした艶やしっとりとした感触が失われ、カサカサしたり、逆にしこりやシミができたり、その周囲の筋肉が凝り固まったりするのです。
高血圧症の場合、特に首の両側の皮膚(胸鎖乳突筋に沿った部分)に、ザラザラとした感触が現れることがあると言われています。 (※胸鎖乳突筋:顔を横に向けると、耳の下から鎖骨の内側にかけて斜めに太く浮き出る筋肉。) この胸鎖乳突筋の奥には、脳へ血液を送る総頚動脈と、脳から戻る総頚静脈という太い血管が通っています。これらの血管は、脳の血液循環だけでなく、全身の血液循環をコントロールする上でも非常に重要な役割を担っています。
血圧が上昇し始めると、この胸鎖乳突筋に沿った皮膚表面が、まるで細かいヤスリをかけたようにザラザラとしてくることがあるのです。 ご自身で分かりにくい場合は、身体の中で比較的皮膚が滑らかとされる両脇腹の皮膚と触り比べてみると、その違いを感じやすいかもしれません。 東洋医学的なアプローチでは、この胸鎖乳突筋とその周辺の緊張を和らげ、血流を改善することが、血圧コントロールの一助となると考えます。
その他、注意したい身体のサイン
高血圧の初期には自覚症状がないことが多いですが、進行すると以下のようなサインが現れることがあります。
- 後頭部のむくみや重だるさ
指で後頭部を強めに押した際、頭蓋骨の硬さが直接感じられず、ブヨブヨとした感触がある場合は注意が必要です。 - 首や肩の強い凝り
上記の後頭部のブヨブヨ感と同時に、首や肩に強い凝りが出ている場合は、血圧が影響している可能性があります。 - 手先、足先の冷え
血圧が高い状態が続くと、末梢血管が収縮しやすくなり、手足の冷えを感じることがあります。
これらのサインが一つでも見られる場合は、血圧が上昇している可能性を考え、生活習慣を見直したり、専門家に相談したりすることを検討しましょう。鍼灸などのツボ刺激によって血圧のコントロールをサポートすることも、安心に繋がる一つの方法です。
医療機関受診の重要性
ただし、めまい、手足のしびれ、激しい頭痛、吐き気、胸の痛み、視力の異常(眼底出血など)といった症状が現れている場合は、高血圧がかなり進行しているか、他の重篤な疾患が隠れている可能性もあります。このような場合は、自己判断せずに必ず速やかに医療機関(内科、循環器科など)を受診し、専門医の診断と適切な治療を受けてください。
2.高血圧症に対する鍼灸治療:ひごころ治療院のアプローチ
鍼灸治療が目指すもの:根本からの体質改善
ひごころ治療院の鍼灸治療は、単に一時的に血圧を下げることを目的とするのではなく、高血圧を引き起こしている可能性のある身体全体のアンバランス(自律神経の乱れ、血行不良、内臓機能の低下、筋肉の過緊張など)を整え、体質を改善することで、結果として血圧が安定しやすい状態を目指します。
高血圧ケアに効果が期待できる主要なツボの例
高血圧に伴う症状や体質に合わせて多くのツボを使い分けますが、代表的なものには以下のようなツボがあります。
具体的な鍼灸治療法
- 首周りの緊張緩和が鍵
まず、前述の胸鎖乳突筋の緊張を丁寧にほぐすことを目的とし、関連するツボ(例:「天鼎」、「人迎」など)を選んで刺激します。これにより、脳への血流改善を促します。「人迎」は、古くから降圧の特効穴の一つとしても知られています。 頭重感がある場合は、頭頂部の「百会」も刺激します。 また、首の後ろ側、頚椎の両側には、首から後頭部へ向かう重要な動脈が通っているため、「天柱」、「風池」といった後頸部のツボを選び、血流改善を図ります。 - 背部・肩甲骨周りのケア
肩の「肩井」、肩甲骨の内側にある「厥陰兪」、「心兪」、「膈兪」などを刺激します。中高年になると、背骨を支える脊柱起立筋が衰えやすく、背骨の両側が凝り固まり、血行が悪くなりがちです。心臓や血管系をコントロールする自律神経(交感神経)は、この筋肉群の過度な緊張の影響を受けやすく、圧迫されることで機能異常が起こり、血圧上昇の一因となることがあります。そのため、背中の筋肉を仙骨付近まで、関連するツボを選んで丁寧にほぐしていきます。 - 胸腹部の調整
胸部や腹部の緊張も血圧に影響を与えるため、「膻中」、「中脘」などのツボを刺激して緩めます。高血圧の方にとってイライラや精神的な緊張は大敵ですので、特にイライラを鎮める効果が期待できる「中脘」などを丁寧に刺激します。 - 手足のツボによる全身調整
手の「曲池」、「手三里」、「合谷」などを刺激し、高血圧に伴うだるさや無気力感の改善を目指します。「内関」は動悸を鎮める特効穴として知られています。 足では「足三里」、「三陰交」、「太渓」などを刺激し、全身の気血の巡りを整えます。 - 「内湧泉(うちゆうせん)」への刺激とその可能性
足の裏にある「湧泉」は、血圧コントロールに効果が期待できるツボとして知られています。一般的に「湧泉」というと、足の指を曲げた時にできるくぼみの中心を指しますが、古来より伝えられる位置よりもやや親指寄り、親指の付け根のふくらみのかかと側にある「内湧泉」というポイントの方が、血圧を下げる効果が高いと言われています。
※ご自宅でのケアとしては、この「内湧泉」のあたりを、握りこぶしで左右交互に軽く100回ずつ程度叩くと、血圧安定のサポートになるという考え方もあります。ただし、効果を保証するものではありません。
鍼灸の施術について
鍼灸治療は、血圧を正常な状態に近づけるサポートとして効果が期待できます。お灸の場合は、上記のツボから症状や体質に合わせて選び、米粒大のもぐさを1カ所につき3~5壮(そう:お灸の単位)程度すえます。
鍼灸治療を受ける上での大切な考え方(注意点)
東洋医学は、血圧測定器などが存在しなかったはるか昔に、その理論体系がほぼ完成されていました。
したがって、鍼灸治療を行う場合も、単に「血圧の数値を下げる」ことだけを直接的な目標とするのではなく、高血圧に伴って現れる様々な不快な症状(頭痛、肩こり、めまい、不眠、イライラなど)を取り除き、身体全体の調子を整え、高血圧が起こりやすい心身の状態(体質)を改善していくことに主眼を置きます。その結果として、血圧が自然に安定してくるというのが、東洋医学的な治療の理想的な考え方です。
また、血圧を正常に保つためには、鍼灸治療と合わせて、以下の生活習慣を守ることも非常に大切です。ひごころ治療院では、これらの生活指導も重視しています。
- バランスの取れた食事を規則正しく摂る(特に減塩、野菜・果物の積極的な摂取)
- 日本の伝統的な食生活(和食)の良さを見直す
- ゆったりとした気持ちで、適度な運動を継続する
- 十分な睡眠と休息をとる
- ストレスを上手にコントロールする
3.ご家庭でできる高血圧セルフケア
鍼灸治療と合わせて、ご家庭でもできるセルフケアを取り入れることで、血圧の安定や心身のリラックスを促し、高血圧に伴う不快な症状の軽減を目指しましょう。
イライラを鎮める「みぞおち指圧」
高血圧気味の方は、精神的なストレスやイライラが大敵です。そんな時には、みぞおち周辺を優しく指圧することで、高ぶった神経を鎮め、リラックス効果が期待できます。
- 方法
- 背もたれのある椅子にゆったりと腰かけ、軽く目を閉じます。
- 息を大きくゆっくりと吐きながら、親指以外の四指の腹を使い、みぞおち(胸骨の下のくぼんだ部分)を5~8秒ほど、心地よい強さでゆっくりと押します。
- 次に、両手の指の腹で、左右のわき腹(あばら骨の一番下あたり)に沿って、指が肋骨の内側に入るようなイメージで優しく押します。これも息を吐きながら行いましょう。
- これを3~5回繰り返します。
- 最後に、みぞおちとおへその中間あたり(中脘の辺り)を、両手で重ねてグーッと心地よく押します。
- ポイント
しばらくすると、イライラした気持ちが落ち着き、呼吸が深くなるのを感じられることがあります。食後すぐは避け、リラックスできる時間に行いましょう。
末端の血行を促す「指もみ」
高血圧では、手先や足先といった末梢の細い血管が収縮し、血行不良が見られることが多く、これが手足の冷えや血圧上昇の一因となることがあります。指をもむことで、末端の血行を促し、全身の血流改善をサポートします。
- 方法
- まず、片方の手の指を1本ずつ、もう片方の手の親指と人差し指で挟みます。
- 指の側面を、爪の生え際から指の付け根に向かって、グリグリと少し圧を加えながら丁寧にもみほぐします。
- 1本の指につき10秒程度を目安に行い、両手の全ての指をもみましょう。
- 同様に、足の指も1本ずつ丁寧にもみほぐします。
- ポイント
特に冷えを感じる指や、硬さを感じる指は念入りに行うと良いでしょう。テレビを見ながらでも手軽に行えます。
血圧コントロールをサポートする「導引体操」
東洋医学には、古くから伝わる「導引の法」という健康体操があります。これは、自然界の動物の動きなどを模倣し、呼吸と合わせてゆっくりと身体を動かすことで、体内の「気」の流れを整え、心身の調和を図るものです。「五禽の戯」などもその一種です。
導引体操は、西洋式の筋力トレーニングとは異なり、ゆっくりとしたテンポで、動作はゆるやかで大きく、リラックスして行うのが特徴です。呼吸に合わせて、腕、体幹、足などを無理なく伸ばしたり、開いたり、ひねったりします。 そのため、血圧が高い方でも身体に大きな負担をかけることなく行うことができ、心身のリラックス、血行促進、自律神経の調整などに役立ちます。
【簡単な導引体操の一例】
※立って行いますが、不安定な方は椅子に座ってできる範囲で行いましょう。始める前に深呼吸をします。
【導引体操を行う際の注意点】
- 無理はしない
決して無理な動作や、痛みを感じるほどの動きはしないでください。 - ゆっくりと行う
動作は一つひとつ丁寧に行い、急がず、身体の感覚に意識を向けましょう。 - 呼吸を止めない
自然な呼吸を続け、特に息を吐くことを意識するとリラックスしやすくなります。呼吸が浅くならないように注意しましょう。 - 楽しんで行う
導引体操には厳密なルールはありません。のびのびと、心地よいと感じるように身体を動かすことが大切です。思い出した時に行うのではなく、できれば毎日少しずつでも続けることで、身体がスッキリし、血圧の安定にも繋がる可能性があります。
4.高血圧と上手につきあうための生活習慣
鍼灸治療やセルフケアの効果を高め、血圧を安定させて健やかな毎日を送るためには、日々の生活習慣を見直すことが非常に重要です。
- バランスの取れた食事を規則正しく
- 減塩を心がける
塩分の摂りすぎは血圧上昇の大きな原因です。1日の塩分摂取目標量を意識し、薄味を心がけましょう。だしや香辛料、香味野菜などを上手に活用しましょう。 - 野菜や果物を積極的に
カリウムを多く含む野菜(ほうれん草、かぼちゃなど)や果物(バナナ、りんごなど)は、余分なナトリウムの排出を助けます。食物繊維も豊富に摂りましょう。 - 良質なたんぱく質と脂質
魚(特に青魚に含まれるEPA・DHA)、大豆製品、鶏むね肉などをバランス良く。動物性脂肪の摂りすぎには注意しましょう。 - 日本の伝統食(和食)の良さを見直す
発酵食品(味噌、納豆など)や海藻類、きのこ類などを取り入れた、低脂肪・高繊維の和食は、高血圧予防にも繋がります。 - 朝・昼・晩、3食きちんと摂る
欠食やまとめ食いは血糖値の急変動や体重増加を招きやすく、血圧にも悪影響を与える可能性があります。
- 減塩を心がける
- 適度な運動を継続する
ウォーキング、サイクリング、水泳などの有酸素運動を、週に3~5日、1回30分程度を目安に行いましょう。ゆったりとした気持ちで、楽しみながら行うことが長続きの秘訣です。 - 適切な体重を維持する
肥満、特に内臓脂肪の蓄積は高血圧のリスクを高めます。食事と運動で適正体重を維持しましょう。 - 禁煙を徹底する
喫煙は血管を収縮させ、動脈硬化を促進し、血圧を上昇させます。禁煙は高血圧改善の第一歩です。 - 節酒を心がける
アルコールの過剰摂取は血圧を上昇させます。適量を守り、休肝日を設けましょう。 - 十分な睡眠と休息をとる
睡眠不足や質の悪い睡眠は、自律神経の乱れやストレスを引き起こし、血圧に悪影響を与えます。規則正しい生活リズムで、質の高い睡眠を確保しましょう。 - ストレスを上手にコントロールする
自分に合ったリラックス法を見つけ、ストレスを溜め込まないように工夫しましょう。深呼吸や瞑想、趣味の時間なども有効です。 - 定期的な血圧測定
家庭でも血圧を測定する習慣をつけ、ご自身の血圧の状態を把握しておきましょう。
ひごころ治療院では、鍼灸治療と合わせて、お一人おひとりのライフスタイルに合わせた無理のない生活習慣のアドバイスも行い、高血圧の根本的な改善と健康な身体づくりをサポートいたします。
頭部 「百会」
首部 「天柱」
背部 「肩井」、「厥陰兪」、「肝兪」
「腎兪」
喉部 「人迎」
胸部 「膻中」
腹部 「中脘」、「大巨」
手部 「内関」
足部 「足三里」、「三陰交」、「湧泉」