痔の種類と治療法 ー 東洋医学と鍼灸によるアプローチでつらいお悩みを改善へ

痔

「もしかして痔かな…」
「座るのもつらい…」
「誰にも相談しにくい…」

は、多くの方が悩みを抱えながらも、デリケートな問題のためなかなか相談しにくい症状の一つです。

しかし、放置すると悪化してしまうことも。東洋医学に基づく鍼灸治療は、つらい痔の症状を和らげ、根本的な体質改善を目指す優しいアプローチです。このページでは、痔の種類や原因、そして鍼灸治療による具体的なケア方法、ご自身でできる対策について詳しくご紹介します。

【目次】

  1. 痔とは?~その種類と主な原因・症状~
    • 痔の代表的な種類(いぼ痔・切れ痔・あな痔・脱肛)
    • 最も多い「いぼ痔(痔核)」のメカニズム
  2. 痔に対する鍼灸治療
    • 鍼灸治療が痔に効果的な理由
    • 痔の改善に効果的な主要なツボ
    • 具体的な鍼灸治療法(お灸を中心とした施術)
    • 東洋医学の知恵 「百会」と「長強」の特別な関係
  3. 鍼灸治療後の大切なこと 再発予防のための注意点
  4. ご家庭でできる痔のセルフケア・家庭療法

1.痔とは?~その種類と主な原因・症状~

痔の代表的な種類(いぼ痔・切れ痔・あな痔・脱肛)

尾が光る蛍

「痔」と一口に言っても、いくつかの種類があります。代表的なものとしては、

  • いぼ痔(痔核じかく
    最も一般的なタイプ。肛門にいぼ状の腫れができる。
  • 切れ痔(裂肛れっこう
    肛門の皮膚が切れてしまう。排便時に強い痛みを伴うことが多い。
  • あな痔(痔瘻じろう
    肛門の周囲に膿のトンネルができてしまう。
  • 脱肛だっこう
    内痔核などが肛門の外に飛び出してしまう状態。

この中でも、普段「痔」といえば、多くの場合「いぼ痔(痔核)」を指します。

最も多い「いぼ痔(痔核)」のメカニズム

肛門の周りには、「直腸静脈叢ちょくちょうじょうみゃくそう」といって、まるで植物のひげ根のように細い血管がクッション状に集まっている部分があります。この部分は身体の血管の末端にあたるため、元々血液の流れが滞りやすい(うっ血しやすい)傾向があります。

ここに、以下のような要因が加わることで、細くて薄い静脈の壁が引き伸ばされ、風船のように膨らんで、肛門の内側や外側にえんどう豆くらいの大きさのこぶ状の膨らみ(=痔核)ができてしまいます。

  • 便秘や下痢
    排便時の強いいきみや、頻繁な排便による刺激。
  • 妊娠・出産
    妊娠中の腹圧の上昇や、出産時のいきみ。
  • 長時間の同じ姿勢
    デスクワークや運転などで長時間座りっぱなし、あるいは立ちっぱなしの仕事。
  • 身体の冷え
    血行不良を招きます。
  • アルコールや香辛料の摂りすぎ
    肛門周囲の血管を拡張させ、うっ血を助長します。

このこぶ状の痔核が肛門付近の神経を刺激して痛みを引き起こしたり、排便時に傷ついて出血したりします。 痔核が肛門の外側にできるものを「外痔核がいじかく」、内側にできるものを「内痔核ないじかく」といいます。内痔核が大きくなって肛門の外に飛び出してしまうのが「脱肛だっこう」です。

痔核は、基本的に肛門周囲の静脈のうっ血、つまり血液循環の障害によって起こるものですから、治療の基本は、肛門周囲の血行をスムーズにし、うっ血を取り除くことが重要になります。

2.痔に対する鍼灸治療

ひごころ治療院では、東洋医学に基づき、痔のつらい症状を和らげるとともに、その背景にある血行不良や体質的な要因にも目を向け、根本からの改善を目指します。

鍼灸治療が痔に効果的な理由

  • 血行促進・うっ血改善
    肛門周囲や関連するツボへの鍼灸刺激により、滞った血流を改善し、うっ血を軽減します。
  • 炎症鎮静・鎮痛効果
    炎症を抑え、痛みを和らげる効果が期待できます。
  • 自律神経の調整
    ストレスや生活習慣の乱れからくる自律神経のアンバランスを整え、消化器系や循環器系の働きを正常化するのを助けます。
  • 内臓機能の調整
    特に便秘が原因となっている場合、大腸の働きを整えるツボを用いることで、排便をスムーズにし、痔への負担を軽減します。
  • 自然治癒力の向上
    身体全体のバランスを整えることで、人が本来持っている治癒力を高め、症状の改善と再発予防を目指します。

痔の改善に効果的な主要なツボの例

痔の症状やタイプ、体質に合わせて多くのツボを使い分けますが、特によく用いられる代表的なツボ(特効穴)には以下のようなものがあります。

臀部 「長強ちょうきょう」、「会陽えよう
頭部 「百会ひゃくえ
腰部 「腎兪じんゆ
手部 「孔最こうさい

その他、症状に応じて以下のツボも加えることがあります。

背中 「大椎だいつい
腰部 「三焦兪さんしょうゆ
腹部 「天枢てんすう
腕部 「曲池きょくち
足部 「足三里あしさんり」、「三陰交さんいんこう」、「太渓たいけい

具体的な鍼灸治療法(お灸を中心とした施術)

痔の治療には、お灸(灸治療)が特に効果を発揮しやすいとされています。

  • 施灸する主なツボ
    百会」、「長強」、「会陽」、「腎兪」、「三焦兪」、「孔最」、「足三里」などに、米粒の半分程度の大きさのもぐさを1カ所につき3~5壮程度すえます。
  • 特に効果的なツボへの施灸
    肛門に近い「長強」と「会陽」には、少し多めに30壮くらいのお灸をすえると、より高い効果が期待できることがあります。
  • 軽度の痛みの場合
    比較的軽い痛み程度の痔核であれば、腕にある「孔最」というツボに20壮ほどお灸をするだけで痛みが和らぐこともあります。

治療のポイント

腰部や臀部のツボを刺激することで、肛門周囲の筋肉の過度な緊張が改善され、血行が促進されることで、痛みや腫れといった諸症状が徐々に軽快していきます。 さらに、お腹の「天枢」を刺激して大腸の機能を整え、腕の「孔最」や「曲池」で炎症や痛みを取り除き、足の「足三里」、「三陰交」、「太谿」などで痛みを軽減しつつ大腸の動きを良くするアプローチも行います。

東洋医学の知恵 「百会」と「長強」の特別な関係

痔の治療における名穴として、頭のてっぺんにある「百会」と、お尻の先端(尾骨の先)にある「長強」が挙げられるのは、一見すると不思議に思われるかもしれません。西洋医学的な理屈では説明がつきにくいかもしれませんが、ここには東洋医学ならではの深い考え方があります。

東洋医学では、人間の生命の営みを自然現象になぞらえて理解しようとします。そして、長い臨床経験の中で、どのツボがどの病気に効果があるかを見出し、体系化してきました。 「天・地・人」という考え方があり、人間は天と地の間に存在し、その影響を受けて生活していると捉えます。人体においても、首から上を「天の部」、喉元からお腹までを「人の部」、お腹から足元までを「地の部」と考えることがあります。 「百会」は「天の部」の最も高い位置に、「長強」は「地の部」の最も低い位置(経絡の始まりと終わりの一つ)にあたります。この天と地の両極端にあるツボを同時に用いることで、身体全体の気血のバランスを大きく調整し、自然界が調和して天気が良くなるように、身体の滞りも解消されるという「天地相和てんちそうわ」の原理を応用しているのです。

3.鍼灸治療後の大切なこと 再発予防のための注意点

痔の症状は、鍼灸治療で改善しても、日常生活の管理がしっかりしていないと再発を繰り返しやすいという特徴があります。治療効果を持続させ、再発を防ぐためには、以下の点に注意しましょう。

  1. 便秘をしないこと
    これが最も重要です。硬い便や強いいきみは肛門に大きな負担をかけます。食物繊維の多い食事、十分な水分摂取、規則正しい排便習慣を心がけましょう。
  2. 足腰を冷やさないこと
    身体の冷え、特に足腰の冷えは痔の大敵です。血行が悪くなり、うっ血を助長します。薄着を避け、冷房の効いた場所に長時間いる場合は羽織物やひざ掛けなどで対策しましょう。
  3. 入浴で温める
    できれば毎日湯船に浸かり、身体を温め、血行を促進しましょう。入浴後、肛門周辺(特に「長強」や「会陽」のあたり)に熱めのシャワーを数分間かけるのも、うっ血改善に効果的です。
  4. 長時間同じ姿勢を避ける
    デスクワークや運転などで長時間座りっぱなしの場合は、1時間に一度は立ち上がって軽く身体を動かすなど、こまめに体勢を変えましょう。
  5. アルコールや刺激物を控える
    これらは肛門周囲の血管を拡張させ、炎症やうっ血を悪化させる可能性があります。特に症状がある時は控えましょう。

4.ご家庭でできる痔のセルフケア・家庭療法

鍼灸治療と合わせて、ご家庭でもできる簡単なセルフケアを取り入れることで、症状の改善や再発予防に役立ちます。

肛門括約筋こうもんかつやくきんトレーニング

肛門の筋肉を意識的に収縮・弛緩させる運動です。

  • 方法
    1. リラックスした状態で、お尻の穴を意識し、「キュッ」と力を入れて締め上げます。
    2. そのままの状態で10秒程度キープします。
    3. ゆっくりと力を抜きます。
    4. これを1日に数回、気づいた時に行いましょう。電車の中やデスクワーク中でも可能です。
  • 期待できる効果
    肛門周囲の血行が促進され、肛門括約筋の筋力も回復することで、うっ血の改善や脱肛の予防・改善に繋がることがあります。

痛みが強い時や、炎症がひどい時は無理に行わないでください。

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