顔面神経麻痺の原因と予防策について ー 鍼灸治療による回復のアプローチ
「朝起きたら、顔の半分が動かない…」
「まぶたが閉じにくく、水や食べ物が口からこぼれてしまう…」
顔面神経麻痺は、ある日突然、顔の筋肉を動かす顔面神経に障害が生じ、片側または両側の顔の筋肉が麻痺する病態です。まばたき、口角を上げる、眉をひそめるといった表情の動作が困難となり、日常生活の質に大きな影響を及ぼします。
東洋医学では、この症状を「口眼喎斜」と呼び、古くから鍼灸治療の対象とされてきました。この記事では、顔面神経麻痺の原因と症状、そして鍼灸治療による回復へのアプローチ、ご自身でできるケアや予防策について詳しく解説します。
【目次】
1.顔面神経麻痺とは?~その原因と様々な症状~
顔面神経麻痺が起こるメカニズム
「夏の暑い日に、扇風機をかけっぱなしでうたた寝をしてしまい、目が覚めたら顔がこわばって笑うことができない…」といった経験談を聞くことがあります。これは、顔が長時間冷やされたり、心身の疲労が続いたりしたときに、顔の表情筋を支配している顔面神経の機能が低下して起こる症状で、顔面神経麻痺といいます。
顔半分に起こった比較的軽い麻痺であれば、2週間程度で自然に治ることもありますが、人目に触れる機会の多い顔のことですから、一刻も早く治したいと思うのは当然のお気持ちです。
主な原因(ウイルス感染・特発性など)
顔面神経麻痺の原因は、急性のものと慢性のものに分けられます。
- 急性の原因(末梢性顔面神経麻痺)
- ベル麻痺
最も多いタイプで、明確な原因が特定できない特発性の顔面神経麻痺です。単純ヘルペスウイルス1型の再活性化が関与していると考えられています。 - ハント症候群
水痘・帯状疱疹ウイルスが原因で、顔面神経麻痺に加え、耳の痛みや水ぶくれ、めまい、耳鳴り、難聴などを伴うのが特徴です。ベル麻痺より重症化しやすく、後遺症が残りやすい傾向があります。
- ベル麻痺
- 慢性の原因(中枢性顔面神経麻痺など)
- 脳腫瘍・脳卒中(脳梗塞、脳出血)
脳内で神経が圧迫されたり、損傷されたりすることによるもの。 - 外傷
事故や手術による神経の損傷。
- 脳腫瘍・脳卒中(脳梗塞、脳出血)
ストレスは直接的な原因ではありませんが、免疫力の低下を招き、潜伏しているウイルスの再活性化を促すなど、発症のリスクを高める可能性があります。
顔面神経麻痺の代表的な症状
症状は、麻痺の程度や原因によって異なりますが、主に以下のようなものが現れます。
- 筋肉の動きの異常
- 額にしわを寄せられない
- 眉を上げられない
- まぶたを完全に閉じられない(兎眼)、目が乾燥する
- 口角が下がり、口笛が吹けない、食べ物や飲み物が口からこぼれる
- 笑うと顔が歪む
- 頬がたるむ
- 感覚障害と痛み
- 味覚障害(顔面神経が舌の前3分の2の味覚を司るため)
- 聴覚過敏(音が大きく響いて聞こえる)
- 顔面や耳の周辺の痛み(特にハント症候群)
注意すべき後遺症と早期治療の重要性
治療が遅れたり、麻痺の程度が重かったりすると、以下のような後遺症が残ることがあります。
- 顔面筋の拘縮
麻痺した筋肉が硬直し、顔が引きつった状態になる。 - 病的共同運動
意図しない筋肉が一緒に動いてしまう現象。(例:目を閉じようとすると、口角が一緒に上がってしまう) - ワニの涙
食事をすると、麻痺した側の目から涙が流れる。 - 味覚異常の残存
- 顔の左右非対称
これらの後遺症を最小限に抑えるためにも、発症後できるだけ早く適切な治療を開始することが非常に重要です。
【重要】まずは専門医の診断を
東洋医学は、顔面神経麻痺の症状を取り除くのに効果的なアプローチですが、その前に必ず専門医(耳鼻咽喉科、神経内科など)の診察を受けてください。 特に、顔面神経麻痺の原因が中枢性疾患(脳出血、脳腫瘍、髄膜炎など)や中毒などである場合は、専門医による治療に一任することが最優先です。顔全体が左右両方とも全く能面のようになってしまった場合なども、脳の中枢の病気が原因である可能性が高いため、専門医の守備範囲となります。
しかし、実際に多いのは、ウイルス感染や寒冷、疲労などがきっかけで起こる突発性の末梢性顔面神経麻痺(ベル麻痺やハント症候群)です。このような場合は、病院での薬物療法などと並行して鍼灸治療を行うことで、麻痺した神経の興奮を高め、筋肉への栄養状態を改善し、血流を促進するなど、回復を力強くサポートすることが期待できます。
2.顔面神経麻痺に対する鍼灸治療
東洋医学では、顔面神経麻痺を、外部からの邪気(風寒など)の侵入や、体内の気血の不足、流れの滞りなどが顔面の経絡に影響を与えた状態と考えます。鍼灸治療は、これらのバランスを整えることで、顔面神経の機能回復を促します。
顔面神経麻痺ケアに効果が期待できる主要なツボの例
顔面神経麻痺の治療では、麻痺している側の顔面部のツボを中心に、全身のバランスを整えるツボを組み合わせて用います。
具体的な鍼灸治療法(鍼・灸・マッサージ)
治療の注意点
低周波通電療法(パルス)の併用
鍼に微弱な電気を流す低周波通電療法(パルス療法)も有効な場合があります。麻痺している筋肉をリズミカルに収縮させることで、筋肉の萎縮を防ぎ、血流を増加させ、神経の再教育を促す効果などが期待できます。
症例報告と治療成果
顔面や全身の関連するツボを刺激することで、麻痺した筋肉の運動機能や、伴う痛みの改善が期待できます。継続的な治療により、まばたきや口角の動きが徐々に回復していくケースが多く報告されています。
患者様の声(一例)
「顔の違和感が軽減し、少しずつ表情が戻ってきました。」
「病院での治療と鍼灸を併用することで、早期の回復を実感できました。」
3.回復をサポートするための予防策とセルフケア
顔面神経麻痺の完全な予防は難しいですが、発症のリスクを減らし、回復をサポートするために以下の対策が重要です。
- 十分な睡眠と休息
免疫力を維持し、ウイルスの再活性化を防ぎます。 - バランスの取れた食事
身体の抵抗力を高めるため、栄養バランスの良い食事を心がけましょう。 - 適度な運動
全身の血行を促進し、ストレスを解消します。 - 顔を冷やさない工夫
特に寒い時期や、クーラーの風が直接当たるような環境では、顔や首元を冷やさないように注意しましょう。 - ストレス管理
過度なストレスは免疫力を低下させます。心身のリラックスを心がけましょう。
4.顔面神経麻痺の社会的・心理的影響と向き合う
顔面神経麻痺は、外見に変化が現れるため、患者様の心理面や社会生活にも大きな影響を及ぼすことがあります。
- 対人コミュニケーションへの抵抗感
表情がうまく作れないことから、人と会うことや話すことに抵抗を感じてしまうことがあります。 - 食事や表情の困難による生活の質の低下
食べ物がこぼれる、目が閉じにくいといった日常生活の不便さ。 - 周囲の理解と支援の重要性
このような心理的な負担を軽減するためには、ご家族や職場、友人といった周囲の人々の正しい理解と温かい支援が非常に重要になります。
ひごころ治療院では、身体的な症状の改善だけでなく、患者様が抱える心理的な不安にも寄り添い、安心して治療に専念していただけるよう、コミュニケーションを大切にしています。