肝臓と免疫システムー古い系統のリンパ球と胸腺との関連
肝臓 は、私たちの体にとって代謝、解毒、胆汁生成など、多岐にわたる生命維持に不可欠な役割を担う臓器です。しかし、その重要な機能はこれらに留まらず、免疫システムにおいても、特に進化的に古い系統の防御機構において中心的な役割を果たしています。
古くからある免疫組織
肝臓とそのリンパ球
肝臓は、胎生期の赤血球造血においても、またリンパ球の産生においても、極めて重要な臓器です。これは、えらから胸腺が発生・進化し、全身性で外来抗原を処理するリンパ球を作り出すようになったのとは対照的です。その対比は、腸から肝臓が発生・進化し、古いタイプの内在抗原を処理するリンパ球が主に肝臓で分化・機能するようになった、という点で見られます。
通常の状態では、肝臓で胸腺外分化した古いタイプのT細胞は、主に肝実質や肝類洞で働いていますが、ストレス、加齢、自己免疫疾患、慢性GVH病、がん、マラリア感染といった状況では、全身性にも送られます。このような状況で肝臓の古いシステムが活性化している際は、ほとんど例外なく、胸腺システムは萎縮しています。
つまり、外来抗原に向けた免疫システム(胸腺システム)と、内在抗原に向けた免疫システム(肝臓システム)は、常に拮抗的に働くものと考えられます。そして、この両システムのスイッチ(切り替え)に深く関与するのが、自律神経系と脳下垂体副腎系です。
ステロイドホルモンの投与によって胸腺は萎縮しますが、アドレナリンの投与でも同様のことが起こります。そして逆に、これらの投与は肝臓の胸腺外T細胞を活性化させます。胸腺外T細胞の活性化は刺激によって単独で起こることもありますが、ステロイドホルモンやカテコールアミンの投与では、同時に顆粒球とNK細胞の活性化も引き起こされます。
サイトカインによる免疫系の調整は、主に免疫細胞間の相互作用を介して行われますが、自律神経系と脳下垂体副腎系による調整は、進化した免疫系から古い免疫系への大きなスイッチとして機能します。この広範な調整システムを考慮に入れずに、全ての免疫現象を完全に理解することは困難でしょう。
胎生期の肝臓では、活発な赤血球造血が行われます。その主な部位は、肝細胞に囲まれた実質内です。この赤血球造血は出生とともに骨髄にその役割を譲り終了しますが、出生後も肝臓にはc-kit⁺の幹細胞が残り、リンパ球を産生し続けます。そして、このリンパ球産生は加齢とともに増大します。特に、生理的に胸腺が加齢によって退縮する頃に盛んとなります。
若い個体でも、先に述べたストレス、がん、自己免疫疾患、マラリア感染、慢性GVH病、妊娠があれば、胸腺システムを一時的に抑え、肝臓システムに切り替わります。これらの加齢以外の状況では、原因が取り除かれれば元の状態に戻ります。すなわち、再び肝臓システムから胸腺システムへと切り替わるのです。この反応は、カテコールアミンやステロイドホルモンの分泌が止まることによって、自動的に他の正常なサイトカインパターンなどが働き、元の状態に戻されるものと思われます。
この記事を読めば、免疫について理解できるかと思います。分かりやすく、丁寧に解説するので、ぜひ一緒に学びましょう!
今回の講義の概要
・肝臓における古い系統の免疫細胞(内在抗原応答)
・肝臓・胸腺システム間の拮抗と神経・ホルモン制御
・肝臓でのリンパ球産生と加齢・病態時の補完機能