手足口病と、菌の均衡の話

手足口病と菌の均衡|「洗う」と「殺す」は違うという話

手足口病と菌の均衡|「洗う」と「殺す」は違うという話

夏になると流行する、手足口病

手のひらや足の裏、口の中に小さな水疱ができて、熱が出ることもある。夏場、お子さんの間で広がる手足口病です。

原因はウイルスです。コクサッキーウイルスやエンテロウイルスといったものが、咳やくしゃみ、手を介した接触、便などを通じて人から人へうつっていきます。

ですから、予防の基本は手洗いです。特にオムツ替えのあと、トイレのあと、食事の前は、丁寧に洗っていただきたいところです。

そのうえで、今日は少し違う角度から、菌と身体の関係についてお話しさせてください。

「洗う」と「殺す」は違う

手洗いと除菌は、しばしば同じものとして語られます。しかし、身体に起きていることは違います。

手洗いは、手についた汚れやウイルスを洗い流す作業です。目的は「落とす」こと。石けんと流水で、物理的に洗い流します。

除菌・殺菌は、そこにいる菌を死滅させる作業です。目的は「殺す」こと。

落とすのと、殺すのと。似ているようで、その後に残るものが違います。

菌の世界には、均衡がある

私たちの身体には、膨大な数の常在菌が住んでいます。

人に有益なもの、害をなすもの、どちらでもないもの。この三者が互いに牽制し合い、ひとつの均衡を保っています。害をなす菌がそこにいたとしても、他の菌に囲まれていれば、そう簡単に勢力を伸ばすことはできません。

ところが、この均衡が崩れると、抑えが効かなくなります。

分かりやすいのが腸です。抗菌薬を使って腸内の細菌叢が一度リセットされると、普段は目立たない菌が急に増えて、腸炎を起こすことがあります。菌を減らしたことが、かえって特定の菌を勢いづかせた形です。実際に臨床で確認されている現象です。

無菌の状態を保てない以上、菌の世界は必ず再構築されます。そのとき、元と同じ均衡が戻ってくるとは限りません。

皮膚にも、同じ理屈がある

手のひらの常在菌は、皮脂を分解して皮膚を弱酸性に保っています。外から来た菌が住み着きにくい環境を、菌自身がつくっているわけです。

ここでアルコール消毒や洗浄を一日に何度も繰り返すと、皮脂の膜まで奪われてしまいます。皮膚が荒れてカサカサになると、バリアとしての働きが落ちます。そして荒れた手には、黄色ブドウ球菌などが定着しやすくなることが分かっています。

守るために消毒をしたのに、守りが薄くなる。そういうことが起こり得ます。

それでも、手洗いはする

誤解のないように書いておきます。手洗いをしないという選択はありません。

手足口病のように人から人へうつる病気に対して、手を洗って洗い流すことは、確かな予防になります。ここは譲れないところです。

大切なのは、洗ったあとです。洗ったら塗る。保湿をして、皮膚そのものを健やかに保つ。これを一組の習慣にしてください。お子さんの手はとくに荒れやすいので、なおさらです。

昔と比べて、減ったもの

「昔に比べて、除菌をしすぎではないか」

そう感じておられる方は多いと思います。この問いは、研究の世界でも真面目に扱われてきました。

かつての子どもは、土をいじり、動物に触れ、外で泥だらけになって遊んでいました。そこで無数の微生物と出会っていたわけです。現代の暮らしでは、その機会が大きく減りました。

実際、家畜のいる農場で育った子どもは、喘息やアレルギーの発症率が明らかに低いことが、ヨーロッパの研究で繰り返し確認されています。生活様式がよく似た二つの宗教共同体を比べた研究では、機械化を拒んで家畜と近い暮らしを続けている側の子どもに、喘息が極端に少なかったという結果も出ています。

ただし、ここは誤解されやすいところなので、はっきり書いておきます。

これは「家の中を清潔にしたからアレルギーが増えた」という話ではありません。 手洗いや掃除を控えるべきだという結論には、決してなりません。この点については、衛生と感染症を研究する専門家たちが、そうした受け取られ方は誤りであるとくり返し指摘しています。

減ったのは、多様な微生物と出会う機会のほうです。都市化が進み、外遊びが減り、土や動物から遠ざかった。関わっているのは、そうした暮らし全体の変化です。

ですから対策も、除菌を控えることではありません。外で遊ぶ。土や自然に触れる。そちらの方向です。

外を固めるだけでなく、内を養う

東洋医学には「衛気えき」という考え方があります。身体の表面をめぐり、外からの邪気を防いでいる気のことです。

この衛気は、食べたものから作られ、しっかり眠ることで補われます。つまり東洋医学は、外からの侵入を防ぐ力の源を、内側に見ていたということです。

現代の言葉に置き換えれば、腸内環境と免疫の関係に近い話です。腸には免疫細胞の多くが集まっており、その働きは腸内細菌のバランスと深く関わっています。そして腸内環境は、偏った食事、睡眠不足、強いストレスで乱れます。

洗って防ぐ。これは外側の対策です。同時に、内側を整えておく。この両方が揃って、はじめて守りが成り立ちます。二千年前から、東洋医学が言い続けてきたことでもあります。

夏に気をつけたい養生

ご家庭で手足口病が出たら

熱が高い、水分が摂れない、ぐったりしている、頭痛や嘔吐があるといった場合は、すぐに小児科を受診してください。まれに髄膜炎などを合併することがあります。

回復したあとも食欲が戻らない、だるさが抜けないというときは、鍼灸で胃腸の働きを助けるお手伝いができます。当院の小児はりは刺さない鍼を使いますので、お子さんに痛みや負担はありません。

大人の方で、夏バテのような疲れが長く続いている場合は、疲れ・だるさ(慢性疲労)のページもご覧ください。

※感染症の診断・治療については、必ず医療機関にご相談ください。当院の施術は、回復期の体調を整えることを目的としています。

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ABOUT US
日吉 直之ひごころ治療院 院長/鍼灸学士・はり師・きゅう師(国家資格)
日本初の鍼灸大学である明治鍼灸大学(現・明治国際医療大学)鍼灸学部卒業、鍼灸学士。はり師・きゅう師(国家資格)、介護予防運動指導員。 2001年より鍼灸臨床に携わり、2009年に武蔵小杉・新丸子でひごころ治療院を開院。 「納得なき施術はしない」を信条に、身体の声を翻訳し、必要最小限の刺激で回復の余白をつくる施術を行っています。 新丸子駅 徒歩4分/武蔵小杉駅 徒歩10分・当日予約はお電話で。 所属学会・研究会:日本東洋医学会/公益社団法人全日本鍼灸学会/日本伝統鍼灸学会 明治国際医療大学同窓会「たには会 関東支部」役員